戦中戦後の台湾の動乱を青春小説として昇華
戦中戦後の台湾の動乱を、熱量たっぷりの青春小説として昇華したのが東山彰良『流』。こちらの舞台は台北だ。
一九七五年の蒋介石死去から物語が始まり、中国から流れてきた外省人ともとから台湾にいる本省人の関係が、それぞれの歴史も含め色濃く綴られる。混沌と無秩序の中を生きる十代の主人公の葛藤と青春の無軌道、挫折と成長。そして祖父の死を通し、家族の歴史に向き合う姿を力強く描いた骨太な物語だ。
流 (講談社文庫)
定価 968円(税込)
講談社
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呉明益『自転車泥棒』も、現代の台湾を生きる人々が、語られなかった父親の人生を辿る物語である。
主人公は台北で暮らす小説家。彼の父は九〇年代はじめに自転車と共に失踪していたが、時を超え、自転車だけが小説家と再会した。修理のためのパーツを探すうち、父親世代の人生の記録がさまざまな形で彼のもとに集まり始める――。
物語は現在から九〇年代、戦後、そして戦中へと遡る。マレー半島のジャングルを走った銀輪部隊。ビルマで日本の師団と戦った者もいる。自転車を組み立てるようにそれらの歴史が合わさり、つながる。家族の物語であり世代の物語であり、そして、近いのに知らなかった台湾史の物語である。
自転車泥棒 (文春文庫 コ 21-1)
定価 1155円(税込)
文藝春秋
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一度は同じ国だった外国。その歴史ゆえに、似ているけれど違う、違うけれど似ている国。だから台湾を描いた小説には、郷愁と異国情緒の両方があるのだ。
大矢博子(おおや・ひろこ)
書評家。著書に『女子ミステリー マストリード100』『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』等。アンソロジーの編集も多数ある。
●この特集の掲載号は……
オール讀物2022年5月号
定価 1100円(税込)
文藝春秋
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ゴールデンウィークは日本橋で〈台湾〉を旅しよう!
台湾発の大型複合セレクトショップ誠品生活日本橋にて、「オール讀物」5月号で紹介されている書籍を集めたブックフェアを、2022年4月22日(金)~5月22日(日)の期間で開催中。
ゴールデンウィーク期間には、ぜひ日本橋で台湾トリップを楽しんでください!
https://books.bunshun.jp/articles/-/7104
2022.05.01(日)
文=大矢博子
写真=文藝春秋
出典=「オール讀物」5月号