〈 Pleading Faceが存在する以前は、涙を流している絵文字や顔文字とともに「ぴえん」という言葉もSNSで投稿されていたが、泣いている度合いが「ぴえん」という言葉を使う人同士でも様々であった。この理由として当時の「ぴえん」は、あくまでも「びえーん」の派生語である「ぴえーん」を簡略化したものとして使用していた者と、“ぴ”と“ん”の間の“え”の文字数で泣きわめく声の大きさや長さを視覚化するという方法に由来して使用していた者がいたからである。

「ぴええええええーーーん」

「ぴええん」

 ※上の方が下よりも泣き喚いている様子を表すことができる。

 その後Pleading Faceが登場することで、“え”の個数で悲しさを表現していた人々が、大泣きするまでもない感情を、この絵文字と「ぴえーん」を最少の “え”の数で「ぴえん」と表現するようになったことからPleading Faceは、「ぴえん顔」として定着していった〉

 言葉にするほどでもない「ぴえん」という心情を、Pleading Faceという絵文字の遊びに置き換えていくのが若者に定着したのだ。

 

 SNSという巨大コミュニケーションツールで、躍動するPleading Face。すぐに「ぴえん顔」と呼ばれるようになり、現在はスマートフォンの変換機能に「ぴえん」と打ち込めば絵文字が出てくるようになる。

 また、若者の流行の発信地、原宿にあるバラエティショップ「サンキューマート」では、ぴえん顔を模したクッションやぬいぐるみが販売されて大ヒット。漫画やアニメでもぴえん顔のキャラクターが多数登場するなど、一大ブームになった。2020年3月に発売されたNintendo Switchソフト『あつまれ どうぶつの森』では、ヒツジを模したキャラクターのちゃちゃまるが、下がり眉、瞳を潤ませた表情はまさにぴえん顔そのもの。任天堂ですら、ぴえんを強く意識しているのは明らかだった。

JC・JK流行語大賞を獲る「ぴえん」

 Pleading Faceの普及とともに、「ぴえん」という言葉自体も若者たちに浸透していく。前出の廣瀬氏が行ったアンケート『どのような意図で「ぴえん」及び「ぴえん顔の絵文字」を使うのか(複数回答)』でも、「残念な感情を表すため」が93 %だが、ホッとした気持ちを表すためも71%など、「バイトしんどい。ぴえん」と悲しいとき、「彼氏が優しかった。ぴえん」と嬉しいときなど、心情を表す汎用性の高い表現として広まっていった。

 この現象に似ているのは、2016~2017年に流行した「卍」であろう。卍は当時、「それは卍だね」「3組の斎藤くん、上級生に喧嘩で勝ったらしいよ。卍じゃね?」というふうに使われており、大きくは「ヤバい」の意で、ヤンチャな人に対す言葉であったり、テンションが上がったときに使われていた。「卍だね」だけでなく、「とてもヤバい」の意として、キャッチーで語呂のいい「マジ卍」も使われていた。

2022.02.02(水)
文=佐々木チワワ