三谷幸喜の映画や舞台にも何作か出演しているが、それも映画『西遊記』(2006年)に三谷が俳優としてゲスト出演した際、撮影現場で三蔵法師役の深津に話しかけてみたところ、感じがよかったので、当時準備中だった監督作品『ザ・マジックアワー』(2008年)のヒロインに抜擢したという。

 このほかにも、映画『博士の愛した数式』(2006年)の出演依頼を受けたのが、奇しくも原作小説を買ったその日だったり、映画『女の子ものがたり』(2009年)のオファーがあったのも、原作マンガを友達に薦められて読んだ直後だったりと、作品との運命的な出会いも何度かあった。

 しかし、そんな出会いはそうしょっちゅうあるものではないだろう。深津はもともと《私の仕事は、一人でできるものではないし、人との関わりから生まれるものなんですね。そのだれか一人が違えば、生まれるものも全然違うものになるかもしれないし》と語るほど(※5)、人との関係を大事にしてきた。それが近年、仕事を絞っていることにもつながっているのではないか。『カムカムエヴリバディ』もじつに13年ぶりの連続ドラマ出演だという。

 いまから6年前のインタビューでは、「深津さんが大事にされていることはどんなことですか」と訊かれ、《なんだろう…自分を女優だと思わずに、人間だと思うようにしている、とかでしょうか。女優だからこうあるべき、みたいなことがないんですよね》と答えている(※6)。

 女優である以前に一人の人間として生きる。その姿勢は、おそらく『カムカムエヴリバディ』で今後、るいが年を重ねていく姿にも反映されるのではないか。実生活のなかで深津が培ってきたものを堪能するという意味でも、これからしばらくテレビに釘づけになる朝が続きそうだ。

※1 「深津絵里 星の王子さまの末裔」(新井敏記『SWITCH STORIES―彼らがいた場所―』新潮文庫、2011年)
※2 『LEE DAYS』Vol.1(2021年4月)
※3 『LEE DAYS』Vol.2(2021年10月)
※4 『an・an』2000年7月28日号
※5 『広告批評』2002年12月号
※6 『an・an』2016年3月2日号

2022.01.18(火)
文=近藤正高