『カムカムエヴリバディ』の公式ドラマ・ガイド(NHK出版)によれば、同作の2代目ヒロインのるいは1944年9月生まれ。深津の番組登場時の時代設定は1962年で、目下、彼女は17歳から18歳にかけてのるいを演じていることになるが、実年齢が40代後半とは思えないほど、まるで違和感がない。それは朝ドラという「型」の存在ばかりでなく、彼女自身のこれまでの舞台経験によるところも大きいように思う。

 

 初舞台を踏んだのは10代の終わりだが、本格的に演劇に開眼したのは20代になって、劇作家・演出家の野田秀樹が主宰するNODA・MAPの公演に、1997年の『キル』以来、あいついで出演したときだった。ちょうど演じるということがわからないと思っていた時期だっただけに、野田との出会いは大きく、《映像では表し得ない舞台ならではの魅力を教えていただけたことで、演じることに対するイマジネーションが確実に広がりました》という(※4)。

 野田作品では舞台を縦横無尽に駆け回ることも多い。ここから深津は表情だけでなく全身を使って演技することを学んでいった。それは『カムカムエヴリバディ』でも活かされている。たとえば、るいが郷里の岡山から大阪に出てきた場面では、ミュージカルのように街行く人たちと一緒に踊ったり、新しい服を買ってはしゃいだりと、希望にあふれる様子を全身で表現していた。このほか、言葉にならない感情を何気ない動きで示すことも少なくない。劇中の深津が少女に扮して違和感がないのは、舞台経験から培われたであろう、そうした演技の賜物といえる。

「自分を女優だと思わないようにしている」

 深津はこれまでの仕事を顧みて、そのときどきで出会いに恵まれてきたということも折に触れて語っている。NODA・MAPへの出演も、そもそもは別の劇団の公演を観に行った際、たまたま野田と初めて会って挨拶したところ、後日、ワークショップに誘われたのがきっかけだった。

2022.01.18(火)
文=近藤正高