「これは、すべての『私』の物語。」

 NHK「連続テレビ小説」第105作目『カムカムエヴリバディ』の公式サイトのトップの画像には、その言葉が添えられていた。コピーの「私」が、制作統括の堀之内礼二郎氏が「朝ドラ史上初の挑戦」と語るトリプルヒロイン、昭和・平成・令和の時代をまたぐ3人のヒロインを暗に指していることは想像に難くない。

「私たちすべての物語」ではない。「私」と別の「私」の価値観の違いを「私たち」という言葉で簡単にまとめられないからこそ、「すべての『私』の物語」という単数形を束ねるような特殊な表現がそこで選ばれているのだろう。

異色の「三人交代制」、その意外な利点

 もともと『カムカムエヴリバディ』以前から、朝の連続テレビ小説はマルチヒロイン的な構造を強めていた。宮藤官九郎の『あまちゃん』の主演は公式には「のん」こと能年玲奈ただ1人だが、ドラマの中では橋本愛が演じる足立ユイが天野アキのオルタナティブのように寄り添い、2人1組のヒロインのように視聴者に愛された。

 以降も多くの朝ドラで「準ヒロイン」的なキャラクターが人気を集める傾向は続く。多様化する視聴者の価値観に合わせるように複数のヒロインが輝く構成は時代の要請とも言える。

 だが今回の『カムカムエヴリバディ』の特異な点は、同時代の中の横軸の多様性ではなく、100年という時間の中でヒロインが完全にバトンタッチする縦軸の多様性であることだ。

「3人交代制」の想像しうるメリットとしては、1人1人の俳優の負担と拘束時間を軽減できるという現実的な側面がある。体力的な過酷さもさることながら、1年近いとも言われる撮影期間の間、スケジュールのほとんどを拘束される番組の構造は、降るほどにオファーの舞い込むトップ俳優であるほど出演の決断に悩むことになる。

 一つの例をあげれば、最初の世代、昭和ヒロイン安子を演じる上白石萌音は、来年2022年に宮崎駿の名作を舞台化した『千と千尋の神隠し』を橋本環奈とのWキャストで演じることが決まっている。

2021.12.08(水)
文=CDB