その出演の減少の理由はあまり語られることがなく、不明のままだ。しかし世界的な評価と、同世代女性からの熱い支持を集めたまま半ば「伝説の女優」になりつつあった深津絵里が、突然朝の連続テレビ小説という「毎日出ずっぱり」の代名詞で復帰するというのだから驚くなという方が無理な話だ。

 それはもちろん深津絵里が『カムカムエヴリバディ』の脚本に出る価値を認めた、ということが何よりも先にあるのだろう。だが同時に「1年間、130話全部出演ではない、凝縮された物語の3分の1で『あなたの時代』を演じてほしい」とNHKが依頼できた、負担を通常より軽減できたことも深津絵里ヒロインを実現する上で大きかったのではないかと思う。

 そして物語終盤に「3代目」のヒロインを演じる川栄李奈からも目が離せない。最近公開された短編アニメ映画『サマーゴースト』で彼女は声優として幽霊の少女を演じているのだが、これが腹式の低い発声で物語に凄みと重さを加える素晴らしい演技だった。

 アイドル出身ながらもともと俳優としての評価が高く、リアルな現代女性の演技ができる若手なのだが、上白石萌音のノスタルジックな魅力に対して、川栄李奈はスピード感のあるアグレッシブな役者だ。ある意味では必ずしも朝ドラ的ではない、攻めたキャスティングができるのもトリプルヒロインのメリットかもしれない。

 

『カムカムエヴリバディ』のここまでの放送を見る限り、「3人交代制」の効果はまずドラマのスピード感に表れている。通常の朝ドラがフルマラソンのように序盤はゆっくりとペースを作るのに対して、上白石萌音の演じる昭和編は中距離走者がトラックを駆け抜けるように序盤から脚本がトップスピードに入る。

 もちろん、デメリットや負担がないわけではない。昭和・平成・令和の三つの時代を描くと口で言うのは簡単だが、ドラマのセットから衣装、時代考証に至るまですべてが3倍必要になってしまうのは誰にでもわかる。100年という時間を描くにはヒロインだけではなく、共演者に至るまでほぼ総入れ替えなのだから、キャスティングの苦労や費用も単純な3倍では利かないかもしれない。

2021.12.08(水)
文=CDB