世界的にも評価の高い作品で、舞台経験も多い上白石萌音にとってはまさに檜舞台である。だがその舞台は、2月28日に初日の幕が上がるのだ。

 11月1日に初回が放送された『カムカムエヴリバディ』は全130回が予定されているが、昨年同時期に放送された『おちょやん』(11月30日-5月14日)と同じ期間を当てはめれば、おそらく『カムカムエヴリバディ』の最終回は4月。2月28日の舞台初日には到底間に合わない。舞台の稽古期間を考えれば、涙をのんでどちらかを断念するしかないスケジュールだ。

 

 だが3人交代制の『カムカムエヴリバディ』のスタイルなら、その二つの大仕事をギリギリなんとか両立させることができる。もともとNHKは近年、以前は土曜まで週6日体制で放送していた朝ドラを月~金の「週休2日体制」に短縮するなどの改革を進めてきてはいるのだが、今作で昭和前期を演じる上白石萌音のキャスティングとスケジュールは、3人交代制が可能にした両立とも言えるだろう。

「あの深津絵里が!」視聴者の衝撃

 それはもしかしたら、2代目ヒロインを演じる深津絵里にも言えるかもしれない。放送前から深津絵里の『カムカムエヴリバディ』ヒロイン登板の発表は大きな話題を集めた。だがそれはNHK側の判断に対してより「あの深津絵里がよく朝ドラのオファーを受けてくれたものだ」という驚きの方が強かったように思う。

『踊る大捜査線』『彼女たちの時代』『きらきらひかる』など、上げればキリがない名作群で鮮明に記憶される深津絵里は、朝ドラ視聴メイン層と共に生きてきた団塊ジュニア世代女性の象徴的存在ではある。 

 だがその一方で、2010年の李相日監督作品『悪人』でモントリオール世界映画祭最優秀主演女優賞を受賞したあと、その評価の高まりと反比例するように出演作は減少していく。2016年以降の5年間で、出演した映画はわずか2本。テレビドラマに至っては、2011年の『ステキな隠し撮り』から今に至るまで、出演したのは2020年のテレビ東京単発ドラマ『最後のオンナ』1本だけという状態だ。

2021.12.08(水)
文=CDB