それでもデビュー作『1999年の夏休み』で、彼女は演技の面白さを知り、この先も続けていきたいと思ったという。萩尾望都の名作マンガ『トーマの心臓』を金子修介監督が映画化した同作は、ギムナジウムの少年たちに若手女優が扮し、いまなお一部で伝説的に語られている。
「先がわからないことに面白さを感じる」
のちに深津は当時を振り返って、《(引用者注:コンテストで優勝して)その後にすぐ映画に出てくださいと言われた。映画の世界って全然わからなかったけれど、先がわからない面白さを感じていたように思います。少年の役を演ってほしいと言われて当惑もしたけれど、自分は求められていると思うと嬉しかった》と語っている(※1)。
「先がわからないことに面白さを感じる」ところは現在にいたるまで変わらない。『カムカムエヴリバディ』への出演を決めたのも、戦前から現代まで3世代にわたる物語を紡ぐため、朝ドラ史上初めてヒロインが3人になると知ったからだ。彼女によれば、そのいきさつは次のようなものだったという。
《先が見えているものより、どうなるかわからないことにすごく惹かれるタイプなんですね(笑)。『じゃあ、やってみよう』とお引き受けしました。プロデューサーの方からお手紙をいただいて、物語に私という存在が必要だとまっすぐに言ってくださって、ありがたいことだなと思いました》(※2)
つくり手から求められていると感じたことが出演の動機になった点も、デビュー作と同じだ。彼女にとって初出演となる朝ドラという枠自体も魅力であったらしい。『カムカムエヴリバディ』の放送直前にはこんな話もしている。
40代後半の深津が演じる「18歳のヒロイン」
《朝ドラでは作る側と観る側に、ある種の共犯関係みたいなものが成立している。そこが舞台のようだなと思います。たとえば舞台では、私が『15歳の少女』と言えば、観客はそう思って観てくださる。歌舞伎も年齢や性別に関係なく、役を演じますよね。それは舞台ならではですし、大きな嘘を大胆につくことができる。嘘とわかっていて、お客さんはそれを楽しむ。朝ドラにもそういう魅力がありますよね。それは朝ドラという『型』があって、そしてその型がとても素敵で、心に響くものだから、105回(引用者注:朝ドラ第1作『娘と私』以来の作品総数)も続いているのだと思います》(※3)
2022.01.18(火)
文=近藤正高