僕みたいな環境で育ったハングリーな人間が反骨精神を持つならまだしも、恵まれた環境で育った彼がこうした反骨心を持っているのも面白い。日記を読んでいて、僕とは家庭環境がずいぶん違うなと思いました。毎日映画館に行ってレコードをコレクションして……。

 兵庫の田舎にいた僕は、当時LPなんて見たこともなかったから。こうしてまったく異なる青春を過ごした2人が、数年後に出会い親友に近い状態にまでなるのだから、不思議なものです。

ヨーロッパ旅行のスケッチ

 和田くんは物にも執着しなかった。いつも荷物は持たずスケッチブックとペンだけ。若い頃一緒にヨーロッパ旅行へ行った時も荷物は少なかった。

 旅の途中、和田くんは風景をスケッチして、僕はコースターや看板などのデザインを模写しました。和田くんはそのスケッチにすごく関心を持ってくれたんです。

 でもロンドンで乗ったタクシーにそのスケッチブックを忘れてしまったんですよ。それを和田くんは生涯残念がってくれました。彼のスケッチは今も残っているから羨ましいなぁ(笑)。

 

みうらじゅんさん「もう袋文字だけでもクラクラ」

「和田誠さんに装丁をお頼みしようと思っているのですが」と、本誌連載の『人生エロエロ』が初単行本になる際、そんな畏れ多いことを編集者に言われて困った。

「そりゃ、やって頂けるのなら夢のようですが……」と、その場は返したが、選りに選ってそんなタイトルのカバーでしょ、絶対、これは無理に違いないと思ってた。

「みうらさんからもプッシュよろしくお願いしますね」

 後日、編集者の計らいで和田さんとお酒を飲む機会を得た。

 たまたま和田さんの展覧会と僕のイベントが仙台であって、その夜、とあるバーで合流したのだった。

 僕は夢中で和田さんの御本『倫敦巴里』や『お楽しみはこれからだ』などについて一方的に喋ったのだと思うけど、途中で編集者に例の件を催促され、酒の力もあって切り出した。

 すると和田さんは笑いながら「いいんじゃないの」と、まるで他人事のようにおっしゃる。「エロエロですけど、本当に大丈夫ですか⁉」と、僕が上気して聞くと「君は大丈夫なんだろ?」と。「は、はい! ありがとうございます‼」

2021.11.10(水)