なぜ韓国から「世界仕様」の映画が生まれるのか?
このように、デスゲームの王道を踏みつつも、リアリティのある視点と現代社会への風刺を絡ませていった『イカゲーム』。細分化していくほどに見えてくる隙のないつくりには天晴れというしかないが、勢いを増す韓国エンタメの“流れ”も、大きく味方した部分だ。
『梨泰院クラス』や『愛の不時着』、そしてアカデミー賞に輝いた『パラサイト 半地下の家族』や韓国=ゾンビの流れを生み出した『新感染 ファイナル・エクスプレス』、村上春樹の小説を大胆に翻案した『バーニング 劇場版』に『タクシー運転手~約束は海を越えて~』、『ジョン・ウィック』にも影響を与えた『悪女/AKUJO』等々、娯楽超大作から賞レース系の作品まで満遍なく力作が出続けている韓国映画・映像業界。
もはや「韓国映画=面白い/とんでもないものが観られる」というのは映画好きの共通認識ともいえるが、一朝一夕でいまの地位を築いたわけではない。
『聖地X』(2021年11月19日[金]公開)でオール韓国ロケを行った入江悠監督や、『孤狼の血』の白石和彌監督、『哭声/コクソン』に出演した國村隼など、韓国の映画業界に精通した日本の映画人たちは、国の助成も含めた映画文化への力の入れようを語っている。先日、白石監督と対談する機会に恵まれたが「ここ20年を費やして、多くの才能が来る業界に変えた」と韓国映画界を評していた。
これは多くの識者が指摘するところで、もともと韓国には、土着の強固な映画文化というものがなく、国を挙げて「世界仕様」の映画作りを志向してきた。つまり、初めから国内での興行でのリクープを視野に入れた作品作りを行っていないということ。
その結果、骨太な作品が次々と生まれ、国内の観客も追随し、世界的評価も高まっていった。その成果が、近年表れているという見方だ。
逆に言えば、日本では良くも悪くも国内でリクープできるシステムや観客層の傾向が強く、今後Netflixなどで世界に向けた作品を作っていく、或いは韓国とのコラボの中でいかに世界基準の作品作りを行えるかが、未来を占うカギといえそうだ。
『パラサイト 半地下の家族』などと共に、韓国映画・ドラマの一つの到達点ともいえる一時代を築いた『イカゲーム』。その裏には、20年以上をかけて成熟してきたエンタメ業界の歩みがあった。故に、本作の評価は決して一過性のものではない。そして、次なる『イカゲーム』級の作品が出てくる日も近いのではないか。
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SYO
映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、装苑、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema
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2021.10.24(日)
文=SYO