――「文章がうまい人っぽい」とは、どんな書き方ですか? 

岩井 「いい文章っぽい」余韻を残して終わらせることです。読者に「いい話を読んだ」と錯覚させるんです。僕のエッセイはオチがあるわけでもなく、ただ自分で面白いと思ったことをダラダラ書いているだけなんですけど、最後の2~3行を「っぽく」書くと、何かいい文章みたいな読後感で終わらせられるんですよ。

 なので第2弾もそれで書いていたら、担当編集さんから「“~っぽく”書くのに頼りすぎていませんか?」と指摘されたので、「うるせえよ」と思って、ちょっとだけ照れたり、反省したりと、僕の気持ちで終わるように変えました。

――担当編集さんからの修正や指示などは結構あったのですか?

岩井 いや、誤字や語尾を直されるくらいで、そんなになかったです。エピソードそのものに対して「これはちょっと」という修正が2回続くと、そのエピソード自体をボツにして違うストーリーを書いていたので、書き上げた文章に対して修正がたくさん入るということはありませんでした。

 

母の衝撃の告白

――「どうでもいい日常」とおっしゃっていますが、岩井さんのエッセイはどこから読んでも楽しめます。特にお母様とのエピソードは、「息子を持つ母」として羨ましいと思いながら拝読しましたが、お母様のご感想は?

岩井 それが、マジでびっくりしたんですけど、読んでないんですよ、母。去年の暮れくらいに聞いたら「衝撃の事実教えてあげようか? 私まだ読んでないの」と打ち明けられました。

 重版のたびに、身銭切ってめっちゃ買って親戚や近所の人に配りまくっているのに、読んでないってなぜ? と理由を聞いたら「熟成させて、熟成本にしてるの」と言われました。意味わからねぇ……。そもそもエッセイの中に母親が出てくるということも話していないので、もし読むことがあったら驚くでしょうね。僕も別に、「書いてあるから読んで」とは言わないですし。

2021.10.12(火)
取材・構成=相澤洋美
撮影=山元茂樹/文藝春秋