脚本執筆歴は60余年。アニメ制作における「シリーズ構成」がなかった時代に「第1話」の脚本を数多く執筆してきた辻真先氏。

 同氏が日本アニメ界のこれまでを振り返った著書『辻真先のテレビアニメ道』(立東舎)は、制作現場の知られざる裏話が盛りだくさんの一冊だ。ここでは同書の一部を抜粋。国民的アニメ『サザエさん』第1話執筆にあたってのエピソードを紹介する。(全2回の1回目/続きを読む

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「落語調のお笑い」という確かなテク

 長年の間「朝日新聞」を購読していたから『サザエさん』にはかねて馴染んでいた。それに作者長谷川町子のマンガなら、戦前に「少女倶楽部」(「少年倶楽部」の姉妹誌で、同じ大日本雄弁会講談社の発行)で彼女のデビューした連載マンガ『仲よし手帖』も読んでいた。

 お師匠さんは『のらくろ』の田河水泡だったから、

(あ、やはり落語調のお笑いだ)

 子ども心に納得したものだ。注釈をつけておくと田河水泡は高澤路亭というペンネームで、落語の台本を書いていた。

 戦前のマンガ(漫画)は「漫」とあるように笑いが売りなので、落語や小咄をベースにギャグ化した絵が大半であった。文章で読む方が笑えるような「漫訳不足の漫画」(大人向きに描くマンガ家はついそうなる)の中で、町子作品には確かなテクで笑わせてもらっていた。

 そのぼくに、『エイトマン』『スーパージェッター』でおつき合いのあったアニメプロTCJから話が来て、『サザエさん』を書くことになった。

「製菓業以外のスポンサー」東芝1社提供に安堵

 東芝の1社提供というから、ホッとした。それまでのアニメは多くが製菓業提供だから被る場合がしばしばだった。おまけに少年誌連載となればライバル同士が常に鎬を削っており、やりにくいケースが多々あった。

『宇宙少年ソラン』を書いていたら、スポンサー森永の担当氏に怖い顔をされた。

「あんた、明治製菓も書いているって?」

「はあ」

 そりゃ書いてますよ。明治は『アトム』のスポンサーだもの。

2021.10.10(日)
文=辻 真先