ぼくの年代で日清戦争は遠い昔のイベントであったが、平成から令和に生きる若者にすれば、太平洋戦争も同等の昔話となるわけだ。長寿番組の存在そのものが、やはり日本文化論の素材に行き着くわけだ。

 だが現在や未来は知らず、この本の務めとしては『サザエさん』事始め——昭和44 年10 月の頃の四苦八苦を書き留めておかねばなるまい。

 

たった7分間に4コマが30本分

 長期連載という点で『サザエさん』は、これまでアニメ化されたどの原作より長い。だからすぐには量的な払底を不安視する声は上がらなかった。

 長い歴史の間にはその時々の世相を反映して書かれていたのだから、現在(というのは昭和44年のことだが)を舞台にしては使えない4コマがある。七輪バタバタなんて戦後日本のつつましさをネタにするのが、もはや無理な高度経済成長期であったのだ。

 作者長谷川町子自身も連載当初は九州在住だったため、テレビで設定した世田谷の雰囲気から遠いものがある。提供東芝の都合でこぼれ落ちるコマがあるのは、扇風機の話で察しがつくだろう。

 そんな事情で、アニメに使用出来る4コマを選ぶのが、最初の作業となった。

 数はハッキリ覚えていないが、2000とか3000とか、その程度の本数だったように思う。

 ごく初期の記憶だが、アニメ1本(7分間)の長さで原作の4コマがどれだけ消化されるか試してみた。まだどの4コマもアニメ処女であったから、1話に好きなだけ使ってみることにした。繋ぎの部分を最小限に削ぎ落として、原作から原作へ有機的? に渡り歩いてシナリオ化した。

 その結果びっくりしたのは、アニメ1話の、たった7分間に4コマが30本入ってしまったことだ。そうなると作者長谷川町子営々3カ月の苦心の積み重ねが、毎週日曜夕方の30分間で消え失せる!

 テレビアニメの巨大な胃袋をSFアニメで思い知っていたつもりのぼくなのに、『サザエさん』のような家庭生活マンガでも、恐るべき健啖ぶりを発揮して想像を絶した。

2021.10.10(日)
文=辻 真先