『サザエさん』の原稿枚数は通常の2倍以上

 なお『サザエ』の脚本に従事して知ったのは、他の番組との原稿枚数の多寡である。東映動画でぼくが多く組んだ芹川有吾監督(『サイボーグ009』『魔法使いサリー』他)からは、

「シナリオは55枚くらいで纏めてよ」

 しばしば注文されていた。原稿用紙1枚が200字詰めで、われわれはペラと称した。小説は400字詰めが普通だが、シナリオはその半分の大きさだ。紙束の上部を指で抑えてペラペラめくれば、全体の構成をチェックしやすいからなのか、そう呼んでいた。

 ちなみに『009』は30分番組で、『サザエさん』は7分間が1話だけれど、なんとペラで40枚入ってしまう。芹川監督が要望する枚数の2倍以上を消費した。

 だからといって『サザエ』の声優が早口でまくし立てるかといえば、そんなことはない。設定も人物も視聴者ご承知のアニメだから、今さら話の背景をごたごた解説する必要だってないはずだ。そんな大量の内容が、7分間のどこに埋没するのか謎であった。

『サザエさん』を降りて久しいから現状は不明だが、放映開始の頃はそうだった。このペースで推移すれば、早晩原作は品切れ必至となる。

 

映画にないテレビドラマの持ち味

 実写版の『サザエさん』をいくつか見ているが、過去の作品では主演者の知名度(江利チエミがサザエに扮して、定評があった)や個性によりかかった感が深かった。アニメでは俳優に頼らぬ独自の魅力を発見せねばならない。

 ぼくはNHK時代に帯ドラマ(毎日一定の時刻に開始する連続ドラマ)『バス通り裏』を演出した経験がある。まだホームドラマというジャンルはなく、まして毎日放映なんて見当がつかなかった。1回が15 分だから、月曜から金曜まで通せば1時間15分のボリュームがある。ちゃんとした重量感のあるドラマを放映出来ておかしくない。

 作者の筒井敬介と須藤出穂は苦心した。ふたりともベテランの脚本家だが試行錯誤した。1週通しで統一したドラマを創ったこともあったが、最後に落ち着いたのは、筒井敬介言うところの「ニコニコ大会」である。

2021.10.10(日)
文=辻 真先