倦怠感や頭痛・めまいなどを引き起こす、気象病の主な要因は“気圧”にあり

 そもそも、「気象病」とはどういう症状を指す言葉なのだろうか。

「実は気象病というのはまだ一般名称で、正式な保険病名ではないのです。また、症状はさまざまで、頭痛・めまい・首と肩のこり・全身の倦怠感・関節痛・うつ症状や不安症など様々です。気象の変化で体調に不調を感じるこれらの症状を一括りにして指す言葉なのです。

 気象病の原因となる気象変化の影響力は『気圧』が約9割、『温度差』が約1割で、『湿度』は1割にも満たない程度。気象病における最大の要因は『気圧』と言っていいでしょう」

 気圧が変化すると、なぜ人体に影響が出るのだろうか。

「先ほども少し触れましたが、平衡感覚をつかさどる『内耳』という耳の奥にある器官が気圧の影響を大きく受けやすいから。気圧が低くなると空気のプレッシャーが弱まるので、例えば山の上に行ったときにポテトチップスの袋がパンパンに膨らむような現象が人体にも起きるのです。他にも、飛行機に乗ったときに耳が“キーン”となり、めまいや頭痛がする状態も同様の現象です。

 ちなみに、低気圧によって症状に結びつくと訴える方が多いのは事実ですが、気圧が上がることでも影響は出ます。ようは『気圧差』ですね。気圧差で膨らんだ状態は内耳を圧迫し、その信号が脳を経由して自律神経を乱し、様々な不調を引き起こすわけです」

「そんなものは気のせいだ」 気象病が病気と認識されなかった時代からの変化

 先ほど「耳鼻科に行っても病名がわからない場合があった」と説明があったが、いままで病院に行っても診断が下りなかった症状が気象病だったというケースは多いのだろうか?

「多いと思いますよ。近年では多くのメディアが気象病という名称をよく使うようになったため、医師たちの間でも“ああ、これは気象病に分類できる症状だな”と判断しやすくなった側面はあると思います。

 これまで気象病という言葉があまり馴染みなかったのも、気象病という観点からデータを取っている人が少なかったからでしょう。症状自体はもちろん昔からあったものですが、気象病自体はこれまでの経験則や統計から判断しているものなので、まだまだ形を与えられたばかりの病気と言えるかもしれません」

 昔からあったといえば、「雨の日に古傷が痛む」などの慣用表現は古くからあるが……。

「それは、もともとあった痛みの神経回路が、天候変化による自律神経の乱れで刺激される現象ですね。昔は根性論で『気のせい』とされてきたものも、今の尺度で見れば気象病だったのかもしれません」

 久手堅医師は、近年「気象病」の認知が広がった背景にはとあるアプリの登場があると言う。

「『頭痛ーる』という気圧の管理アプリの影響力が大きいです。住んでいる市区町村を登録することで、痛みが起こりやすい日時を気圧グラフで確認することができるサービスなのですが、2013年に始まり2021年には600万ダウンロードを達成しています。

 実際、当院に通う患者さんの9割方は『頭痛ーる』をチェックしてから来られます。このアプリの人気爆発や、気象病を取り上げる場面の増加もあって、近年では認知が広がったのでしょう」

————今では降水確率を気にするのと同じように、気圧の上下をチェックするのが一般的になりつつある我々現代人。それは医師による横断的な臨床の繰り返しによって判明し、浸透した新しい常識と言えよう。

 後編では、気象変化によって様々な影響を受ける「自律神経」についての概要と体調の変化への対策を解説。そちらの記事も合わせてどうぞ。

» 気圧変化で影響を受ける「自律神経」。「気象病」と呼ばれる最新の病対策を専門の医師が徹底解説!!を読む

久手堅 司(くでけん・つかさ)

せたがや内科・神経内科クリニック院長・医学博士。
日本内科学会 総合内科専門医
日本神経学会 神経内科専門医
日本頭痛学会 頭痛専門医
日本脳卒中学会 脳卒中専門医
https://setagayanaika.com/

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2021.10.12(火)
文=TND幽介〈A4studio〉