近年では認知度が高まりつつある「気象病」。前回の記事では、“気象病のプロ”である「せたがや内科・神経内科クリニック」院長の久手堅 司医師に、気象病と向き合うようになったきっかけや、気象病が認知されるようになった背景、また気象病の主な原因である「気圧」について解説いただいた。

 本記事では、気圧などの気象変動が人体に具体的にどんな影響を及ぼしているのか、そして気象病への対策について詳しく解説していただいた。

気象の変化によって大きな変調をきたす人体の重要なシステム“自律神経”って何?

 気象病に関するサイトなどを見ると、よく「自律神経」という言葉を耳に目にする。改めて「自律神経」とはどういう働きを持つメカニズムなのだろうか。(以下、「 」内、久手堅医師)

「自律神経は脳から全身に出ている末梢神経です。これには日中や活動中に活発になる『交感神経』と、夜やリラックスしているときに活発になる『副交感神経』の2種類があります。

 これら2つの交感神経がシーソーのようにバランスを取ることで、無意識下に身体機能はコントロールされています。例えば寒いところに行くと体が勝手にブルブル震えたり暑いと勝手に汗が吹き出したりしますが、それらも自律神経の働きです」

「気象病」関連のサイトでよく目にする「自律神経失調症」とはなにか?

 では、なぜ気象病が自律神経に影響するとされているのか。

「気圧などによって、平衡感覚をつかさどる『内耳』という耳の奥にある器官のバランスが崩れると、その信号が自律神経を刺激し『バランスが崩れているよ!』となります。これによって交感神経が刺激されると、興奮状態になって血圧の上昇や心拍数の増加などの変調を引き起こしたり、副交感神経が刺激されると、全身倦怠感、起床困難、低血圧などになることに。この現象が気象変化の度に繰り返されると、自律神経が乱れやすくなってしまうのです。

 自律神経失調症は、自律神経が乱れて正常に機能しないことによって起こる症状の総称です。具体的な症状としては、だるさ、不眠、疲れが取れない、頭痛、動悸に息切れ、めまい、立ちくらみ、便秘や下痢等といった様々な症状が出ます。

 さらに“この症状が出ているのでこの病気でしょう”と簡単に特定できないといった特徴があります。脳神経外科、耳鼻科、内科胃腸科などで詳しく検査を受けたにも関わらず、その症状の原因となる病名がわからないという事態になって初めて、自律神経失調症と診断される場合が多いんです」

 自律神経失調症の要因のひとつに気象病があることは間違いないと久手堅医師は語るが、その要因は多岐に渡る。そのうえ、症状によっては自律神経失調症ではない別の病気によって引き起こされている場合もあり、判別は難しいようだ。

「実際、当院の患者さんにも『頭痛やめまいがして、ネットで調べたらどうやら自律神経失調症のようだ』と思い込んだまま来られる方は結構います。ですが、自律神経失調症に伴う症状を出す原因は他の病気である場合もあるわけですから、そうとは限りません。

 自己判断だと訪ねるべき外来を間違えてしまうことも多いので、当院はあえて『自律神経失調症外来』を設けています。当院では外来を横断して正しい治療法を見出すシステムを実践しているため、自律神経失調症だと思って当外来を訪れた方でも『実は、原因は肩や首のコリだった』とか『メンタルから来る自律神経の乱れだと思ったら、気象病が原因だった』など、診断に応じて効率的な症状の改善に努めています」

2021.10.12(火)
文=TND幽介〈A4studio〉