東京を離れ、ひとりで地方に住む選択をした4人の移住物語。「とりあえず動いてみる」という軽やかさで居を構え、旅するように土地の魅力に触れ豊かな日々を過ごしている。自然の恵みや、人との出会い……そして一日の始まり、満員電車とは無縁の幸せな朝時間についても聞いてみた。
知らない土地に住むからこそ意外な発見にわくわくする
西尾 実夏 27歳
東京→玉野(岡山)
【仕事】保育園の栄養士→カフェ勤務
【住居】アパート(1K) 月額30,000円、駐車場代 年間5,000円
【移住の手段】自治体の移住相談会に参加
見知らぬ土地で生活すると自分にどんな変化が訪れるのか。“実験”の感覚で移住を試みたという西尾実夏さん。
「海外でひとりで生活し切磋琢磨している友人に影響されて、自分もやってみたいと思ったんです。周りに流されるのではなく、自分で選択する人生を歩みたいなと。20代の今は、新しい体験をしていくことが、何よりも大切という気持ちもありましたね」
移住先は以前、旅で訪れたことのあった岡山県と決めていた。果物、野菜といった豊かな岡山食材に感動し、東京から近すぎず、遠すぎずの距離感も良かった。行動あるのみと、まずは東京・有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」(45道府県の移住相談窓口が集まっている)に足を運ぶ。
「担当の方からは岡山で働く場所をまずは見つけないとだめだと一蹴されました(笑)。当時私は保育園の栄養士として働いていたので、同じ職種をハローワークで探しました。運良く職場が決まり、今度は住む場所を探すことに」
山も海もある自然豊かな岡山。住む候補地はいくつかあったが、決め手は東京で開催された、移住相談会で対応してくれた森美樹さんの提案や人柄だったそう。
「森さんは瀬戸内海に面した玉野市の移住サポートをされている方で、お会いしてすぐに“一度、玉野に来ませんか?”と提案してくれて、来週行きますと即答しました(笑)」
かつて造船業で栄えた玉野市は宇野港から四国へのフェリーが行き交う港町。西尾さんは森さんから物件を案内され、一軒目で「ここにしよう」と決めたという。窓から海が見えること、という条件を満たしていたから、迷いはなかった。
「女性ひとりなので安心できるように、大家さんがいる物件を紹介しました」と森さんは話す。
「移住をするにあたって周りで反対する声もあったんですけど、森さんは唯一肯定してくれた人。おかげで一歩を踏み出すことができました。玉野に来てからも、町で森さんに会うと声をかけてくれたりして、気にかけてくれるのがありがたいです」
2021.09.29(水)
Photographs=Wataru Sato