ふたりにとっての「サブカルチャー」

齊藤 「漂着者」のお話をいただいたときは、テレビドラマが今後どうなっていくんだろうと考えていて、実はあまり晴れやかではない気持ちだったんです。

 そんなときにリリーさんと別の現場でお会いして軽く相談させていただいた際に、「全裸で海に漂着する登場シーンを演じられるのは、『ターミネーター』か寺島しのぶさんか工くんくらいじゃないか」とリリーさんがおっしゃってくれて、それが出演の決め手になりました。

リリー 普通それは、やめる決め手になるんだよ(笑)。

齊藤 (笑)。でも、そこもやはりリリーさんの“かぎ分け”なんです。ドラマ「全裸監督」(19・21)のときも、「山田孝之が村西とおるを演じることに香ばしさを感じた」とおっしゃっていて、すごく印象的でした。

 僕自身、連続ドラマを背負うことは大変なのですが、「全裸で漂着する」というファーストシーンへの興味で軽やかにお受けすることが必要なのかも、とリリーさんとの何気ない会話で感じられたんです。そうした“導き”は、いままでにも多々ありました。

リリー そうだったのか(笑)。工くんは映画の番組も持っているし、役者さんでありながらサブカルの人、というイメージがありました。だからこそ、『blank13』に呼んでいただいたときは嬉しかったですね。

――「サブカル」というイメージは、世間の方々がリリーさんに抱いているものとも通じるのではないでしょうか。

リリー いまは、僕とかみうらじゅんの時代とは「サブカルチャー」の意味合いが異なってきたと思います。昔のサブカルの人は雑誌が主に働く場所で、1人で30も40も連載を持っていたんですよ。そのときは、アイドルソングやアニメが好きというと「オタク」と差別されるところがあった。いまやもう、これらはメインカルチャーですよね。

 ただ工くんの場合は、植草甚一の時代から連綿と続く「サブカルチャー」なんです。それもあって、最初から親近感を持っていました。そのサブカルチャーのにおいを感じたのは、『blank13』のクランクイン日です。

 実は最初に撮ったシーンが雀荘で、出演者が僕と杉作J太郎と蛭子能収なんですよ。昭和の「宝島」か! という(笑)。

齊藤 (笑)。

リリー 撮影におけるファーストカットって、ものすごく重要じゃないですか。しかも初長編監督作ですし。それがなんでこの面子? って(笑)。「工くんって俺が思ってたより変な人だなぁ」と思ったのを覚えています。しかも蛭子さんが2時間遅刻したというね……(笑)。

 俺は1番年下だけど、これは流石に叱らなきゃと思って、蛭子さんに「何してたんですか」と問いただしたら、「昨日、旅に行ってたんですよ!」(声真似)って。「いや、それは昨日の話でしょ。今日は?」と聞くと「それがわからないんですよね」って……。それを横で聞いていた杉作さんが「かわいそうにねぇ」って言って、大丈夫かこの現場と思いました(笑)。

齊藤 ありましたね……(笑)。

リリー そう、だから工くんは監督としてもすごく異質(笑)。もちろん素晴らしく優秀な方で、「出る」も「撮る」もやるから、バランスを見ながら動いている感じがしますね。

 あと、すごいなと思うのはちゃんと形にしていること。大抵、「監督もやりたい」と言う俳優さんは話だけで終わってしまうものなのに、どんどん形にしてしまう。それなのに、実際会うとその瞬発力やエネルギーをまるで感じさせない(笑)。不思議な人ですね。

2021.09.19(日)
文=SYO
撮影=三宅史郎