最初の自粛期間にチョイスした映画も“変わってる”!?
――いまリリーさんがおっしゃったように、齊藤さんは次々と作品を発表していますよね。『その日、カレーライスができるまで』の併映作品『HOME FIGHT』(2020年公開、監督:清水康彦、主演:伊藤沙莉、ラバーガール大水洋介)は、リモート映画制作プロジェクト「TOKYO TELEWORK FILM」の一環で生まれた作品ですが、コロナ禍に入りなお一層加速した印象があります。
本作のコメントでも「この混沌とした現代にどんな作品が生まれるべきなのか? 映画は不要不急なのだろうか?」と書かれていますが、いかがでしょう?
齊藤 やっぱり外出自粛期間のなかで、カルチャーがなかったら独房にいるような気分になっていただろうなとゾッとしたんです。外に出られない中で、唯一外界と繋げてくれたのがこれまでも好きだった映画だったんですよね。マイケル・ホイの『Mr.Boo!』シリーズを観返して救われたりしました。
リリー 最初の頃の自粛期間は、この世の終わり感があったよね。外に出たらゾンビがいるんじゃないかくらいの終末感があふれていた。
齊藤 本当にそうですよね。
リリー いやでも、そこで『Mr.Boo!』シリーズをチョイスするところが、やっぱり工くんはすごいと思う(笑)。自分が置かれている緊張感と作品のテイストが伴っていないし、俺だったら観られなかった(笑)。
齊藤 確かに(笑)。いま思うと食べ合わせが悪かったですね(笑)。
リリー そうそう(笑)。いまの話ひとつとっても、工くんはやっぱり変な人なんだよな。よくそんな深刻なトーンで「マイケル・ホイを観た……」って言えるなと思いながら聞いてた(笑)。
コロナ禍に入ってから1年半の最も大きな変化だと、みんながネットで映画を観るようになりましたよね。2年前は、NetflixやAmazonプライム・ビデオを見ている人たちはここまで多くはなかった。「テレビは無料で観るものだ」という感覚が強かった日本人が、自宅やネットで有料チャンネルを観ることに対し、抵抗を持たなくなった気がします。
その結果、幸か不幸か映画を観る全体数が増えたようには感じていて、とはいえ「リリーさんのあれ観たよ」と言われる作品が、全部ネットで配信しているものになってしまった。劇場でしかやっていないものは観られないから、こちらとしては痛し痒しですね。
――そんな中、本作を劇場公開するというところに、すごく意義を感じます。
リリー この映画に関しては、撮影していたのが今年の4月とか5月で、つい最近なんです。小林プロデューサーとは昔からテレビでバカみたいなことをやってきましたし、そこに工くんと「ペンション・恋は桃色」でも一緒にやった清水康彦監督がいて、僕の中では完全に友だちと自主映画を作るような感覚でした。撮影は3日くらいでしたし、劇場公開する感覚は全くなかったんです。
――そうだったんですね!
リリー そうそう。「できたら工くんの家でみんなで観ればいいんじゃない?」くらいの感覚でした(笑)。まさかちゃんと劇場公開するとは思っていなかったし、3日間で劇場用の映画を作って、しかも撮ってから3、4か月のスピード感で流せるんだ! というのは驚きでした。
どんどん映画の制作費が抑えられて、作り手たちが食べるのも大変な状況になっている中で、こういうスタイルで映画を作っていいのかと思う反面、機材の進歩もあって「映画はニュース性や即時性が苦手なメディアだ」という前提を覆すことにもなるなと思います。どんどん「映画は“いま”を描ける」という風になってくるんじゃないかな。
ちょうどこの作品に入る前、NHKで『不要不急の銀河』(20)というスナックが舞台の作品に出演していたんですが、「飲食店が迫害を受けている。これをドラマにしなくちゃいけない」というドキュメンタリー要素のあるドラマなんです。やっぱりこれから先、映画もドラマも即効性を持たないと通じなくなっていくように思いますね。
そういった意味で、『その日、カレーライスができるまで』は普遍的なものを描いていながら、非常に現代的であり、こうしたタイプの作品が今後主流になっていくかもしれないなと感じています。
2021.09.19(日)
文=SYO
撮影=三宅史郎