あと、本書で得たもうひとつの気づきは、不可能だと勝手に思い込まされていたことってけっこう世の中にあるんだなということ。何かにとり憑かれている自分、たとえば大企業のために自分の生活を捧げるような労働をめぐる信仰――、そういう憑き物落としをするのは言葉しかありません。

 シュティルナーの「亡霊」という言葉をうまく使われていましたが、何か社会の呪縛によって呪いにかけられたときは呪いで返してはいけない。これをもみほぐすのって言葉なんですよね。

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ブレイディみかこ

1965年福岡県福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。ライター、コラムニスト。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞、19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞特別賞などを受賞。他の著書に『労働者階級の反乱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け』『ブロークン・ブリテンに聞け』などがある。

藤原辰史

1976年北海道旭川市生まれ。歴史学者、京都大学人文科学研究所准教授。東京大学大学院農学生命科学研究科講師等を経て、現職。専攻は、農業史、食の思想史、ドイツ現代史。『ナチスのキッチン』で河合隼雄学芸賞、『分解の哲学 ― 腐敗と発酵をめぐる思考』でサントリー学芸賞を受賞。他の著書に、『トラクターの世界史―人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』『戦争と農業』『給食の歴史』『農の原理の史的研究:「農学栄えて農業亡ぶ」再考』などがある。

ブレイディみかこが語る“パンデミック時代の生き方”と、藤原辰史の「知性の足がガタガタと震える」世界 へ続く

2021.09.10(金)
文=ブレイディみかこ、藤原辰史