使用頻度の比較でわかったのは、この半世紀ほどで「させていただく」「させてくれる」の2つが、残り2つに比べよく使われるようになったこと。これは4つの表現が、対人距離的に最も「遠い」表現と最も「近い」表現に二極化しているとも言える。
どういうことなのか。「させていただく」を例にとると、「させていただく」は主語が「私」になるので、言語上「あなた」に触らずにすむ表現となる。さらに、敬語形で「させてもらう」より丁寧な表現であるため、4つのうち相手から最も「遠ざかる」表現なのだ。
それに対して、主語が他者になり、敬語形でない「させてくれる」は最も「近づく」表現となる。
「させていただく」が使われることが増えた場面は
データの分析からは、どういう形で「させていただく」が使われることが増えたかも明らかになった。
多様な動詞とともに使われてきた「させていただきます」だが、近年は「お話しする」「説明する」「報告する」といった「能動的コミュニケーション動詞」と一緒に使用することが特に増えている。
これは、実際は一方的に話をしたり、説明をしたりする場面であっても、「私はあなたがそこにいることを意識していますよ」というサインを、「させていただく」で前もって出しているということなのかもしれない。
政治家が「させていただく」を多用するというコメントをよく耳にする。これは政治家が「させていただく」をことさらよく使うというよりも、国会答弁が質疑応答の繰り返しだから、当然「質問する」「お答えする」といった「コミュニケーション動詞」を使うことになり、それらの動詞に導かれて「させていただく」が使われているのではないかと思う。
2021.04.22(木)
文=椎名美智