二役も三役も演じられる日が来ることを願って

 9年の歳月を経て初菊という役に再び巡り会いました。歌舞伎座は現在、三部制で公演を行い、出演者は各部ごとの入れ替え制となっています。万が一感染者が出てもすべての部を中止にしなくて済むという感染防止対策に基づいてのことで、俳優さんは一公演一役が基本という状況が続いています。

 「家族にとって救いようのない結末ということもあり、実は好きな芝居とは言いにくい作品なんです。そのため初菊は意識してモチベーションを上げないと取り組めない役でもありました。

 でも今はどの役であれ、芝居をさせていただけることがまずありがたい。以前のように二役も三役もさせていただける日がまた来ることを願っていますが、当面はこの状況が続くでしょう。でも、だからこそ! その一役に集中して臨みたい。そうすることでまた新たに見えてくるものもあるかもしれません。

 そしてそこからまた何を発見できるか、それも楽しみです。とにかくいただいた役を誠心誠意演じる、役者がすべきことはそれに尽きます」

写真をもう一度見る(アザーカットあり)

【取材こぼれ話】歌舞伎座タワーで新緑の息吹にほっと一息

 取材が行われたのは緊急事態宣言が解除されてまもなくのこと。感染防止対策を徹底させた上で、リモートではない対面でインタビューがようやく実現しました。「歌舞伎は滅びるかもしれない」と思われたという梅枝さんですが、インパクトある言葉とは対照的にその表情は穏やかで取材は終始和やかな雰囲気で進んでいきました。その様子に、真正面から危機と向き合いながらも、冷静なスタンスで歌舞伎俳優としてすべきことを全うしようとする姿勢が滲みます。

 当日はすがすがしい晴天ということもあり、歌舞伎座タワーにあるオープンエアスペースでも撮影をさせていただきました。それが屋上庭園と五右衛門階段です。依然として新型コロナウィルスの感染拡大は予断を許さない状況が続いていますが、歌舞伎座を訪れたなら、こちらも訪れてみてはいかがでしょうか。清々しい風と新緑の息吹にほっとできるひとときを過ごせることでしょう。

 さて梅枝さんは四月に引き続き五月も歌舞伎座へのご出演です。第二部の『仮名手本忠臣蔵 道行旅路の花聟』で演じるのは腰元おかる。恋人の勘平と共に生まれ故郷へ落ち延びていく旅の様子を描いた華やかな舞踊劇です。

●梅枝さん 第二部『絵本太功記』初菊役で出演中! 四月大歌舞伎

期間 2021年4月3日(土)~28日(水)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時45分~
第三部 午後6時~
※休演 9日(金)、19日(月)
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/708/


●梅枝さん 第二部『仮名手本忠臣蔵 道行旅路の花聟』腰元おかる役で出演予定! 五月大歌舞伎

期間 2021年5月3日(月・祝)~28日(金)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時30分~
第三部 午後6時20分~
※休演 10日(月)、19日(水)
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/714/

中村梅枝(なかむら・ばいし)

1987年生まれ。女方の名門、中村時蔵家の長男として生まれる。1991年6月、歌舞伎座『人情裏長屋』の鶴之助で初お目見得。1994年6月、歌舞伎座『幡随長兵衛』の倅長松と『道行旅路の嫁入』の旅の若者で四代目中村梅枝を襲名し初舞台。2020年11月には、国立劇場『彦山権現誓助剣 毛谷村』で長男の小川大晴君が初お目見得した。