「恋」って聞くと、どんなイメージが浮かびますか?  胸のときめき、甘酸っぱい思い出、それとも情熱的な関係性でしょうか。でも、もしその「恋」が、もっと広くて深くて、一筋縄ではいかないものだとしたら?

 古都・鎌倉を舞台に、独身のテレビ局プロデューサー・吉野千明(小泉今日子)と、鎌倉市役所職員・長倉和平(中井貴一)を中心に描かれるドラマ『最後から二番目の恋』シリーズは、まさにそんな問いを私たちに投げかけます。


「相手によく見られたい」という気負いと無縁の関係

 前作から11年が経ち、『続・続・最後から二番目の恋』となってもなお多くの視聴者の心を掴んで離さないこの作品の魅力、それはタイトルにも掲げられた「恋」という言葉の奥深さにあるのかもしれません。

 私たちはとかく「恋」を恋愛のカテゴリーに押し込めがちですが、このドラマで描かれる千明と和平の関係性、そして彼らを取り巻く人々の生き様を見ていると、その「恋」は、友情、家族愛、はたまた人生そのものへの慈しみ、とさまざまな形に姿を変えて私たちに語りかけてきます。

 都会の喧騒から逃れるように鎌倉に古民家を買った千明と、その隣人である生粋の鎌倉っ子・和平。二人の出会いは、お世辞にもロマンティックとは程遠いものでした。最初は価値観の違いから衝突ばかりだった彼ら。最悪な出会いからの惹かれ合い、これぞラブコメの王道フォーマット……と思いきや、今や丁々発止の言葉の応酬はまるで夫婦漫才! 二人の恋愛は、近づきそうで近づかない、絶妙な「付かず離れず」の距離感を保ち続けます。

 むしろ彼らの関係性は、お互いの生活にズカズカと踏み込み、遠慮なく本音をぶつけ合い、時には相手の弱さや過去の傷にも容赦なく触れながら、その根底に不思議な信頼感と安心感を育んでいく、という独特の道を辿るのです。

 若い頃の恋愛にありがちな「相手によく見られたい」という気負いや、「こうあるべき」という理想像に縛られる息苦しさはここにはありません。互いに素の自分をさらけ出し、ダメな部分も笑い飛ばし合える関係は、人生の長い道を共に歩む上で、何よりも代えがたい安らぎと強さを与えてくれるものです。まさに恋愛という言葉だけでは表現しきれない、より成熟した人間同士の深い結びつきが、そこにはあります。

 長倉家の縁側や食卓は、彼らにとって重要なコミュニケーションの場。仕事の愚痴、健康の悩み、家族の問題、そして人生の虚しさといった、決して華やかではないけれど誰もが抱えるリアルな話題が、ユーモアたっぷりに交わされます。

 千明が和平の淹れたまずいコーヒーを飲みながら悪態をつき、和平が千明の奔放な言動に呆れながらも的を射た助言をする。そんな日常の積み重ねの中で、「心地良い距離感」が生まれていく様子は、見ている私たちも思わずクスリと笑ってしまうほど。閉ざされた関係ではなく、そこに他のメンバーが加わることで、さらに豊かな交流が生まれているのも、このドラマの魅力ですよね。そう、もはやホームコメディなのです。

2025.06.23(月)
文=綿貫大介