ミシュランスターシェフ、福井食材に挑戦!

 日本全国、とびきり美味しい食材で魅了する土地がたくさんあるなかで、スターシェフたちが今、注目しているのが福井県。古くは朝廷に食物を供することが許された「御食国(みけつくに)」であり、実はコシヒカリの発祥も福井県。

 日本海の新鮮な幸に恵まれ、独自の食文化も育んできた福井県は、まさに幸福に胃袋を満たしてくれる、“福胃県”でもあるのです。

 さらに2021年5月21日に発売される「ミシュランガイド北陸 2021 特別版」には、福井が初登場。これから県内にあるレストランに大いに注目が集まりそうです。

 とくに、地元の生産者にこだわった、おしゃれして行きたいフレンチが点在しているのが福井県。なかでも2019年にオープンした「レストランカードル」は、今年28歳という気鋭、東福(とうふく)正登シェフのたゆまぬ進化に注目が集まる話題の一軒です。

 さて、この人気店を舞台にして、このたび東京・浅草のミシュラン2ツ星、レストラン【ナベノ-イズム】の渡辺雄一郎シェフとの一夜限りのコラボレーションが実現。まずはその様子からレポートします。

 世界の美食界に革新をもたらした巨匠、故ジョエル・ロブション氏のもとで豊富な経験を積み、シャトーレストラン「ジョエル・ロブション」では、エグゼクティブシェフを務めた経歴をもつ渡辺シェフ。

 実は、福井県との縁は古く、ロブション時代から食材をはじめとした福井の逸品に親しんできたといいます。

渡辺シェフ 「昆布は、ずっと敦賀の奥井海生堂。蔵囲2年昆布を愛用していますし、永平寺町の地酒・黒龍はお店でも提供させていただいています」

 いずれも全国の料理人から熱烈に愛されている、福井を代表する食のブランド。さらに、料理人の命ともいうべき包丁も福井県産です。

渡辺シェフ 「高村刃物製作所の包丁には、日々本当に感謝しています」

 越前市で職人技を守り継ぐ高村刃物製作所。ジャンルを問わず、食の最前線で活躍する料理人たちがこぞって愛用するその包丁は、究極の切れ味を追求した唯一無二の品。

 レアに焼いた肉を切っても肉汁が出ない……どころか、もし指を切ってしまっても押さえておけば傷口がつながる(!?)とも言われるほど、切り口はシャープでクリア。海外のスターシェフにもファンが多く、現在は注文してから数年待ちとなっているそう。

 さて、いよいよ一夜限りのコラボディナーがスタート。若狭ぐじ、ふくいサーモン、若狭牛……、福井が生み出す高級食材が2人のシェフの手により、どんな新しい美味の価値を生み出すのか。期待に胸が高鳴ります。

 アミューズからはじまる全7品のコース。渡辺シェフのスペシャリテも「福井バージョン」で登場します。

「我が師であるジョエル・ロブションを代表する料理、ジュレ・ド・キャビア。これを20歳のときに食べて衝撃を受けて、彼のもとで働こうと決意しました。その思い入れのあるメニューをインスパイアした一皿です」

 奥井海生堂の蔵囲2年昆布のジュレ、福井産蕎麦粉をフランス料理の技法で乳化させたフォンダン、さらにキャビアとともに添えられるのは、福井が誇る高級食材「汐うに」。しかも今回は、200~300個のうにからわずか100gほどしか作れないという「粉うに」を使用しました。

 この「汐うに」。このわた、からすみと並ぶ日本三大珍味に数えられる希少品で、創業約200年の老舗「天たつ」の越前仕立て汐うには、極上と賞賛される逸品です。その濃密な風味は、世界を食べ尽くした欧米の食通たちをも虜にするほど。福井の絶品が織りなす美味のアンサンブルが口の中に広がった瞬間、まさに至福の感情も胸に広がっていきます。

 そして、本日の主役「若狭ぐじ極(きわみ)」がテーブルに。京都の料亭や割烹では、贅沢な味覚の象徴としてお馴染みの「ぐじ(甘鯛)」。なかでも福井・若狭湾で獲れたものは、旨み・甘みが濃厚で格別とされる高級品。

 その若狭産のなかでも、重さ500グラム以上、鮮度・姿形の良いものだけが「若狭ぐじ」を名乗ることができ、しかも「若狭ぐじ極」は、重さ800グラム以上、水揚げされた船上で神経締めされた鮮度抜群のもの。まさに究極のぐじであり、福井県が誇る最高級ブランド魚なのです。

「ジョエル・ロブションでは、オープン以来ずっとフランスで考案されたレシピで料理を提供してきました。それが今から17年前、私が提案して初めてメニューに載った日本発信の料理、それがウロコ付きの甘鯛です。ウロコをカリカリに焼き上げながら、その魚の身はふっくらと蒸し焼き状態に。和食の焼き魚の焼き上がりをイメージしてフランス料理に取り入れた、思い出深い一皿です」

 今回は、フランス料理の世界に新風を吹き込んだレシピを「若狭ぐじ極」を用いて美しい一皿に。香ばしい香りと濃厚な甘み、そして奥深い旨みの余韻が印象的……。まさに渡辺シェフの技と感性が光る逸品です。

 そのほかにも今回のコラボディナーでは、福井の美味がお皿の上で大活躍。この地でしか生まれえない新しい美味の歓び。そのさらなる進化に期待が集まります。

 さて、次のページでは、福井の食文化を支える生産者さんのもとを、渡辺シェフと一緒に訪ねてみます。

◆ご紹介したお店・生産者の情報

レストランカードル(福井市)
https://restaurant-cadre.com/

レストラン ジャルダン(福井市)
https://jarudan.com/

奥井海生堂(敦賀市)
https://www.konbu.co.jp/

黒龍酒造(永平寺町)
http://www.kokuryu.co.jp/

天たつ(福井市)
https://www.tentatu.com/

成実漆器店(鯖江市)
http://www.narumi-shikki.com/

高村刃物製作所(越前市)
http://takamurahamono.jp/

越前おおの農林樂舎(大野市)
http://www.ono-gakusya.jp/

農園たや(福井市)
https://www.nouentaya.com/

ワトム農園(福井市)
https://watom.net/

レストラン【ナベノ-イズム】(東京・浅草)

http://www.nabeno-ism.tokyo/

2021.04.14(水)
文・構成=矢野詔次郎
撮影=上田順子、矢野詔次郎