福井の食を育む生産者さんを訪ねてみました
豊穣な若狭湾を取り囲むように雄大な山々がそびえる福井県。清浄な水に恵まれ、まさに海と山の幸の宝庫。今回は、渡辺シェフ、東福シェフとともに福井の食文化を担う生産者さんのもとを訪ねてみました。
福井市街から車で約30分の越前町。約2ヘクタールの「ほだ場(原木椎茸の栽培場)」をもつ「姉崎椎茸園」の姉崎敏明さん・裕美子さんは、原木椎茸ひと筋に約50年。「何年続けても、原木椎茸の栽培は本当に面白い」と笑顔で語ります。
原木椎茸の栽培は、伐採した原木に菌を打ち込み、それを組み上げた「ほだ木」を丹精こめて管理し、収穫までに約2年を要するそう。姉崎椎茸園では、この「ほだ木」も地元・越前町産にこだわり、自ら木を伐り出して製作しています。
渡辺シェフ 「収穫するのにベストな椎茸は、どう見分けるのですか?」
敏明さん 「ひだを覆っている膜が開きかけで、カサの内側に巻き込みがあるもの。これがベストです」
カゴいっぱいになった椎茸を、さっそく森のなかで試食。まずはバター炒めから。
渡辺シェフ 「ブール・ノワゼットで火入れしてみます……。あれ、この椎茸、火を入れてもぜんぜん縮まない。まるでセップ・ア・ラ・ボルドレーズ(セップ茸のボルドー風)のようになってきました」
出来立て熱々を口に入れると……
東福シェフ 「これ、おいしいですねっ」
渡辺シェフ 「ニンニクがあると、もっといいね」
敏明さん 「私らは、炭火で焼いたのがいちばん好きです」
裕美子さん 「丼にしても美味しいですよ」
東福シェフ 「えっ、丼ですか!?」
というわけで、つづいて薪火で焼いた原木椎茸を。
敏明さん 「お醤油もいいですけど、塩がいちばんいいと思います」
東福シェフ 「あ……、甘いですね」
渡辺シェフ 「なるほど、香りを強く感じます。ミキュイ(半生)で食べるとまた、ピュアな感じがしていいですね」
東福シェフ 「オリーブオイルをちょこっとかけてみましょう」
渡辺シェフ 「おっ、味変してこれもおいしい」
みなさまもぜひ、おうちで原木椎茸を食べるときの参考してみてくださいね。
続いて訪れたのは、創業1804年。福井市内最古の酒蔵・常山(じょうざん)酒造。戦災・震災などを乗り越えて、昔ながらに和釜蒸しの酒造りを守り続けています。
通常は、酒蔵見学は行っていませんが、この日は渡辺シェフのために9代目を継ぐ常山(とこやま)晋平さんが蔵内をご案内。
常山さん 「福井の気候風土に寄り添いたい、との思いから私たちの蔵では、酒米は福井市の美山地区のものを使用しています」
そして、美しく整えられた空間にも、酒造りへの深い思いが込められています。
常山さん 「料理人さんにとっての厨房のように、ここが私たちの舞台。働く人たちのモチベーションがあがるように、そしてきれいで働き勝手も良くなるように数年前に改装しました。フィジカルもメンタルも安定しないと、絶対にいいお酒は造れませんから」
現在、常山酒造で造っているお酒は、年間約500石(1石=一升瓶100本)。
「超辛」タイプに定評があり、福井県民にとくに愛されています。
また、フランスの有名レストランや5ツ星ホテルのソムリエらが審査員となってパリで開かれる日本酒コンクール「Kura Master」では、「常山 純米大吟醸 特別栽培米美山錦」が2020年に金メダルを獲得するなど、海外でも高い評価を得ています。
「生産量は非常に少ないのですが、こういうお酒もあります」と、常山さんがコップに注いだのが「常山 純米吟醸さかほまれ直汲生」。
福井県が約8年の歳月をかけて開発した新しい酒米「さかほまれ」を使用した生原酒を、搾り立て直ぐに瓶詰めし、発酵過程で生じる炭酸ガスも含んだ希少な品。「直汲」ならではのチリチリとしたガス感が印象的なお酒です。
渡辺シェフ 「透明感のある口あたり。そこにフレッシュ感もある。おいしいですね」
そのほか、季節限定のお酒も魅力的です。
「純米吟醸 玄達(げんたつ)」は、毎年6月中旬に発売される幻の銘酒。6月中旬から8月中旬にかけてのわずか2か月間のみ出漁が許され、特大の鯛やヒラマサが獲れるという釣り人の聖地「玄達瀬(げんたつせ)」の解禁に合わせて出荷され、酒好きにとって初夏の風物詩になっています。
ちなみに現在、福井県内には30の蔵元があり、それぞれが個性を競いながら、伝統の酒造りを継承しています。福井ブランドの日本酒は、地域の風土・文化を反映させながら、日本の食文化に欠かせない存在となっているのです。
2021.04.14(水)
文・構成=矢野詔次郎
撮影=上田順子、矢野詔次郎