ダ・ヴィンチと出会い、最新技法を学び取った

左:無口な女(ラ・ムータ):1505~1507年油彩/板64x48cm ウルビーノ、マルケ州国立美術館 (C)Archivio Fotografico S.B.S.A.E.Urbino
右:聖家族と仔羊:1507 年 油彩/板 28x21.5cm マドリード、プラド美術館 ©Museo Nacional del Prado. Madrid.

 この頃のフィレンツェでは、政庁舎(ヴェッキオ宮)の壁画を依頼されたレオナルドとミケランジェロが競い合って下絵を制作していた。中でも同じ画家(ミケランジェロも壁画や天井画を制作しているがやはり本領は彫刻家)であるレオナルドへの傾倒は深く、輪郭をぼかして描くレオナルド独自の「スフマート」の技法や三角構図などを学び取った。レオナルドのアトリエを訪ねた際、ちょうど制作中だった《モナ・リザ》を目にしたとも伝えられるように、《無口な女(ラ・ムータ)》をはじめ、《モナ・リザ》のポーズや姿勢を引用した作品は数多く残されている。ピラミッド型の安定した構図を作り出している《聖家族と仔羊》も、レオナルドが研究していたイエスと仔羊を組み合わせた作品の影響を受けたものだろうとされる。

大公の聖母:1505~1506年油彩/板84.4x55.9cm フィレンツェ、パラティーナ美術館 (C)Antonio Quattrone

 フィエレンツェ時代に描かれた《大公の聖母》に代表される女性像は、甘く優美な理想の女性のイメージとして、その後何世紀にもわたって西洋美術における美の基準となった。これ、と指を指される1点ではないけれど、見ればすぐそれとわかるラファエロらしさの溢れる女性像を、私たちは知らぬまま、数知れず見続けてきたのだ。《大公の聖母》は気品ある端正な顔立ちをしているが、だからといって近づき難くはない、甘美な優しさを湛えている。現在は黒く塗り込められているその背景に、元は部屋と窓、そこから見える風景が描かれていたという最新の調査結果が、会場で示されているのも興味深い。

聖ゲオルギウスと竜:1504~1505年油彩/板30.7x26.8cm パリ、ルーヴル美術館 (C)RMN-Grand Palais (Musee du Louvre) / Jean-Gilles Berizzi / distributed by AMF –DNPartcom

 またラファエロはミケランジェロと共通のパトロンを持っていたことから、その作品を間近で見る機会を持ち、男性裸体像の示す動きの表現やポーズのバリエーションを学んで、自分の作品に応用していった。

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2013.04.13(土)