そして第1話を見た後、「謎の女さくらはいったい何を狙って、寿三郎に近づくのか?」という謎が明かされていくドラマになるのだろう……と予測していた。

 しかし、第4話まで観終わった時点で、予測が外れた! と言わざるを得ない。

 

あっさり明かされた戸田恵梨香の正体

『俺の家の話』が狙う射程はもっと広かったのだ。たとえば、さくらの正体は第2、3話で早々に明かされる。さらに寿三郎とさくらの恋愛関係が嘘であることも、すでに家族の共通認識となる。つまり、さくらの謎は、『俺の家の話』においてはまだ序盤の物語でしかなかったのだ。

戸田恵梨香 ©getty
戸田恵梨香 ©getty

 そして続く第4話では、寿三郎の一番弟子・寿限無(桐谷健太)が、実は寿三郎の息子――寿一とは腹違いの兄弟だったことが明らかになる。

 ここで冒頭に挙げた、「あ、これ『カラマーゾフの兄弟』だ」という感想が出てくることになる。

 ドストエフスキーが著したロシアの古典的文学『カラマーゾフの兄弟』は、父と3人兄弟の葛藤を描いた物語である。考えてみれば、長男ドミートリイが父フョ―ドルと対立している点、そして父の恋人・グルーシェンカが問題の発端となる点、そして腹違いの兄弟スメルジャコフがいたと判明する点。『俺の家の話』は、どこからどう見ても『カラマーゾフの兄弟』である。というか『カラマーゾフの兄弟』は、19世紀ロシアを舞台にした「俺の家の話」だ。

 しかし、だとすると21世紀日本を舞台にしたドラマ『俺の家の話』は、ただの介護ドラマではない。

『カラマーゾフの兄弟』は、人間の「間違い」を巡る物語だからである。

『カラマーゾフの兄弟』も冒頭では魔性の美人・グルーシェンカをめぐる親子喧嘩の話に見せかけるのだが、物語が進むにつれ、父も、3兄弟も、それぞれ間違いを犯し、その間違いといかに向き合うかが焦点になる。そしてそのなかで彼らの欲望や、男性としての見栄を、これでもかと読者に突き付けるのだ。

2021.02.25(木)
文=三宅香帆