令和は不思議な時代である。もともと全く新しい価値観が生まれると言われていた時代の流れに加えて、思いもよらないコロナ禍に見舞われて、何か今までの常識がひっくり返ってもおかしくないような前後不覚の状況に陥っている。

 だからこそ、これまでの流れと全く違う美人の系譜が出来上がるのだ。

 少なくとも、「あざとさ」が最大のキーワードなんて、長い美人史上、初めてのことなのだから。


美人を敬うコンテンツはもう既に末期的。当たり前の美人はもういらない?

 時代がどんなに変わろうと、美人の定義は変わらない、今までそう言われてきた。何があろうと花は花。けれども花にも流行がある。

 開店祝の蘭の鉢植えがゾロリ並んでいると、美しいものも美しく見えないシチュエーションってあるのだと思わされるし、やたら華やかなブーケより、野菜のブーケの方に心が動いたり、モノクロのオドロオドロしい花の写真がかっこよく見えたり、ひょっとしたら今はそういう時代なのかもしれない。

 いずれにせよ何かが少し、以前とは違う。例えば最近ミスコンなどでも、誰かの娘だったりする話題性を炎上覚悟で優先させるケースが多過ぎる。世界の美しい顔100人だってツッコミどころ満載過ぎる。“美人を敬うコンテンツ”が、軒並み末期的症状を見せていることを、感じないだろうか。

 一方で、性意識の変化もさらに進み、同時に男子の女性化も止めようがない印象。とすれば女性たちが闇雲に美人を目指す意味も希薄になってくる。

 さらに言えば、いわゆるMe Too運動から、それなりの場所で男が女に「美人だねえ、かわいいねえ」と言うだけでセクハラになる時代。ふと、一体何のための美人なのか? という違和感も生まれてくる。

 とはいえ、美人が得する世の中の仕組みはそれほど大きく変わらない。こういう調査自体、少々問題だけれども、アメリカのある経済学者が、容姿がいいと人間どれだけ得するかという視点から、美人と収入の相関関係を大真面目に調べている。

 まず男女の見た目を5段階評価(これ自体ヤバイ)し、一方でそれぞれの収入を調べる、という単純な調査。単純である分だけ、ハラハラするが、結果はまあ案の定と言うべきか、美人とおぼしきグループは、平均的なグループよりも、8%も収入が多かったという。生涯賃金に置き換えると大卒平均で生涯賃金約3億円として、約2,400万円の差となる。ちなみに平均以下とは3,600万円差。

 かくして、この経済学者はとても単純に見た目の評価だけで調査を行ったが、今の世の中もっと複雑、価値観ももっと多様化し、人間ももっと複雑になっている。得するのはただの見た目美人ではないような気がするのだ。

 話はちょっと極端になるが、最近どうしても気になるのは、ストーカーや性犯罪者の男性の顔が決まって美しいこと。今やイケメンが美人以上にちやほやされる時代、その顔ならモテるだろうにという清潔感もある男子が、従来ならモテないことが動機の犯罪に手を染める。

 今本当に顔だけじゃないのだというのを思い知らされるのだ。ここは男も女も同じ。顔が整っているだけではダメなのである。言うならばそれが令和という時代の美意識なのだ。

 だから改めて整理してみたくなった「令和美人」の系譜。まさに多様化の時代を体現するように令和美人は本当に隅から隅までいろんなタイプがいる。だから嬉しい。何だか楽しくなる。女として世界が広がる気がするからだ。

2021.01.02(土)
文=齋藤 薫

CREA 2021年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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