令和美人のキーワードはひたすら「あざとい」。
そう「あざとい」くらいでないとこの時代を生き抜けない

 その多様性の象徴が、“あざとい”というキーワードなのだろう。令和美人の主役はやはり「あざと系」。昭和では一時的にもてはやされたかと思えば、たちまち嫌われ、平成には化石のような存在になっていた「ぶりっこ」。

 その進化系の色合いを持ちながら、進化どころか“あざとさ”を操るまでの英知を身に付けてしまったのが令和の「あざと系」なのだ。当然のことながら一見あざとく見えるのに、女たちの絶大な支持を得るのは、リスクを承知で“あざとさ”をわざわざ出してくるから。

 つまり結果、ずるくない。むしろ“あざとさ”を形にする勇気や思い切りを評価されるのだ。そこまで狙っていたとしたら大した“あざとさ”だが、本来が到底好かれるはずのない“あざとさ”を大逆転させるという快挙を成し遂げたのは、言うまでもなく田中みな実。

 正直これは狙って行き着けるほど簡単ではない境地であり、安易に真似ると怪我をするほど、危険で高度な“あざとさ”なのだ。

 類語を探せば、狡猾、悪知恵、駆け引き、政治力に手練手管と、エグい言葉がひしめく中に、“可愛らしい仕草”がひとつだけ混じるが、そのパラドックスを見事に形にしたのだから大したもの。まあこの人だけの知性とサービス精神、妥協なしの努力と、振り切った実行力が複合的に組み合わさった結果であり、そのどれもが人並み外れているから、田中みな実は「あざと超越系」という別格のポジションにあると言ってもいい。

 中途半端にダダ漏れする“あざとさ”で嫌われる人は、山ほどいるのだから。この「あざと超越系」にかろうじて入れられるのは、別の意味で度を越していて危険度いっぱいの弘中綾香アナくらいか。ただ田中みな実は世の中や時代をよーく見ている。四方八方に気を配りながらあざとく振る舞う。そこが自然児の弘中アナとは違うところ。“あざとさ”自体はやっぱり危ういのである。

田中みな実

1986年生まれ。2009年TBSにアナウンサーとして入社。14年にフリーに転身後、あざとかわいいキャラで大ブレイク。

 そういう意味で“危うさ”満載なのが、松本まりか。どこまでが演技で、どこまでが地か、境界線が曖昧でそれが危うさを作っていて目を離せない。

 ただ田中みな実同様、ともかく一生懸命で振り切っていることだけは確か。どんな仕事も“相手の予想を超えていく人”でなければ、結果として成功できないという仕事の法則にのっとるなら、松本まりかも予想を超え続ければ時代の徒花では終わらないはずだ。

松本まりか

1984年生まれ、東京都出身の女優。NHKドラマ「六番目の小夜子」でデビュー。ナレーター、声優としても活躍中。

 いやもっと俯瞰してみれば、今成功している人は、滝沢カレン以外、大なり小なり皆“あざとさ”は持っている。芸能界で成功するってそういうことだから。でもそれを知性と感性と良識でコントロールするかしないかの違いだけ。別にあざとくたっていい、あざといくらいでちょうどいい時代なのである。

滝沢カレン

1992年生まれ。雑誌『Seven teen』のモデルとして注目を集め、現在は『Oggi』専属モデルとして活躍。特技は料理。

2021.01.02(土)
文=齋藤 薫

CREA 2021年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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