社会の縮図のような公立高校で過ごす10代の若者たちの日常
◆『グランド・アーミー』
グランド・アーミーとは、NYに実在する公立高校のこと。
本作が群像劇形式で描くのは、同校に通ういわゆるジェネレーションZ(1990年代半ばから2000年代前半生まれの世代)のティーンエイジャーたちの日常です。
さすがブルックリン最大規模を誇る同校なだけあり、生徒たちの背景はさまざま。5人の主要登場人物を見れば一目瞭然です。
まずは、ダンス部のキャプテンを目指す傍ら、授業中にフェミニズム運動を展開する活動的な白人女性のジョーイ。彼女が男友達から性暴力に遭うという事件は、終盤では大きく取り上げられます。
女性キャラには他に、家庭の経済的事情で進学が危ぶまれる黒人のドミニクと、中国に出自を持ちながらユダヤ系白人夫婦の里子として育ち、どこのコミュニティーにも属せず承認欲求に飢えているレイラがいます。
男性に目を向ければ、親友とのちょっとしたいたずらが原因で、人種差別的な処遇を受けることになる黒人のジェイソン、ゲイであることを周囲に打ち明けられずに懊悩するインド系のシドが、重要キャラといえるでしょう。
ことほどさように、生徒たちが直面する問題は、現代社会が抱えるそれと直結しているのです。
グランド・アーミーが舞台に選ばれたのは、社会の縮図を描くのにうってつけだったからとみてまず間違いないでしょう。
実際、最後ジェイソンが参加する黒人たちの抗議デモが、ブラック・ライヴズ・マターを意識していることは明らかです。
同じくジェネレーションZを描いたHBOドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』と併せて、ぜひとも2020年に観ておきたい作品です。
◎あらすじ
『グランド・アーミー』
舞台となるのは、ブルックリン最大規模の公立高校グランド・アーミー。同校に通う学生たちを通して、セクシズム、ルッキズム、人種差別、性的指向差別、貧困など、現代社会を取り巻くシリアスな問題が描かれる。
2020.12.28(月)
文=鍵和田啓介