普遍的な女性の物語でもある実話に基づくフィクション
◆『アンオーソドックス』
ひとりの若い女性が、最小限の荷物だけ持って何かから逃げようとしている――。
サスペンス映画さながらのそんな描写から、本作は幕を開けます。彼女が何から逃げようとしているのかと言えば、ハシディックのコミュニティーです。
ハシディックとは、ユダヤ教の教典とされるトーラーを忠実に守って暮らしていることから、「超正統派(ウルトラ・オーソドックス)」と呼ばれるユダヤ教の一派のこと。
この一派、かなり自由が制限されていることで知られています。
一部を紹介すると、どこに住んでいても言語はイディッシュ語、色柄物、ボディラインが出る衣服はダメ、女性は結婚したら剃髪せねばならず、しかも外出時はスカーフやウィッグで頭を隠さねばない、食べ物も教典で認められもののみ……といった具合。
本作はそんなハシディックのコミュニティーがあるNYのウィリアムズバーグから、着の身着のまま脱出した女性の実話に基づくフィクションです。
主人公である17歳のエスティが、夫や家族を捨てて逃げた先は、同じくコミュニティーから離脱した母の暮らすドイツ。
その後、かの地で夫たちに追われながら音楽学校への入学を目指す現在のエスティと、コミュニティーで暮らしていた過去のエスティを並行的に描くことで明らかになるのは、彼女がなぜ逃げることを決意したのか、そしてなぜ音楽学校を目指すのか。
劇中に登場するハシディック文化は純粋に興味深くある一方、その女性蔑視的な側面には理解に苦しむ部分も少なくありません。と同時に、それは現代日本女性の結婚生活を取り巻く問題と通ずるところもありそうです。
その意味で、本作は普遍的な女性の物語といえるかもしれません。
◎あらすじ
『アンオーソドックス』
NYのウィリアムズバーグの一角にある、「超正統派」のユダヤ教コミュニティーから脱出を図ったエスティが、本当の自分を見つけるまで。女優のジェシカ・チャステイン、ドラマ『Fleabag フリーバッグ』のクリエイターであるフィービー・ウォーラー=ブリッジなどが絶賛したことでも話題に。
2020.12.28(月)
文=鍵和田啓介