写真集『我我』--被写体と撮り手がぶつかり合ったり手を取り合ったり
そのうちに、撮りためた写真を一冊にまとめようとの話が持ち上がった。2019年に写真集『我我』として、それはかたちを成した。
「この写真集でようやく、撮り手と被写体の存在感をイーブンにできたかなという手応えを得られました。本の宣伝活動をするうえではどうしても、『安達祐実』というネームバリューに頼りきりになってしまうのですが」
『我我』というタイトルは象徴的だ。「我=撮り手」と「我=被写体」が、ぶつかり合ったり手を取り合ったりしつつ並び立っている。夫婦であり、協働創作者でもある安達さん・桑島さんの様子をよく表している。
そして今般、『我我』の続編ともいうべき写真集がまとまった。旅をテーマにした『我旅我行』。
「2014~18年のあいだに、僕ら夫婦は4度の撮影旅行に出かけました。行き先はフランス、ポーランドとドイツ、沖縄、スペイン。そのときに撮った写真と、今年4~8月の日常写真を、往還するような構成にして一冊を編みました」
今年の春夏といえばそう、コロナ禍で外出自粛が強く唱えられていた時期。旅先の「外」と自粛中の「内」、対照的な状況を交互に並べることで、それぞれの写真群がいっそう際立ってくる。
周囲の環境が画角にたっぷり取り込まれているからか、人物を撮ったものというよりも、いい「風景写真」を見たという印象が強く残る。
「そうだとしたらうれしいです。写真家としての僕は、妻を通して世界を見ているようなところがあるから。
夫婦で撮っているというと、『ああ、愛情物語ってわけね』と思われがちだけど、そういうベタベタと甘い部分だけでやっているわけじゃないんです。妻を、安達祐実というモチーフを用いながら、『いい写真ってなんだろう?』『写真という表現で何ができるだろう?』といったことを追求しているつもり。夫婦の愛とかじゃなくて、これは写真なんです」
2020.11.24(火)
文=桑島智輝、山内宏泰