自覚はなかったけれど、結局はマザコンってことなのかも(笑)
――沖田監督は、2014年公開の『滝を見にいく』でも、中高年の女性たちを主人公にしたコメディを撮っておられます。
撮影時には気づかなかったのですが、『滝を見にいく』も始終テレビの前にいて、何をするのも億劫がっている母を冒険に連れ出したい、母親で『グーニーズ』を撮りたいというところから始まっていたと思います。
あの映画の登場人物たちは山で遭難しかけるけれど、普段の世界よりも、迷子になった山での時間のほうが豊かなのではないかと感じ始める。日々の生活の犠牲になってきたお母さん世代の解放の話です。
すると、テーマとしては『おらおらで〜』とも重なる部分があります。母親には自由に楽しく生きてほしいという息子の願い?
自覚はなかったけれど、結局はマザコンってことなのかもしれないです(笑)。
――撮影にあたり、田中裕子さんとはどんなお話をされたのですか?
視線をどこに向けるかとか、湿布をどう貼るかなど、主に具体的な話をしていました。
僕らにとっては湿布のシーンがすごく重要だったんです(笑)。
――気合の入った湿布貼りポーズには爆笑しました。
自分の見えないところにうまく貼るって職人技ですよね? あれがなかなかうまくいかなくて、貼りやすい湿布を探して、田中さんは何十枚も練習してくれました。
よく考えれば、見えない場所でも自分で貼らなければいけない。
つまり「ひとりである」ことの象徴の、せつないシーンのはずなんですが、あっけなく終わってしまって(笑)。
田中さんは、ほかにも僕がゲラゲラ笑いながら書いた、ちょっとしたセリフも見逃さずにちゃんと面白がってくださいました。それは感動的でしたね。
――現在や過去が入り交じったり、歌が出てきたり、舞台セットのような場面があったりなど、バラエティに富んだ見せ方をされていました。どういう意図でそうされたのですか?
桃子さんは基本的に家にいてごはんを食べて寝て、出かけるといっても図書館や病院くらい。
その生活を2時間の映画にするってこと自体が、ちょっと無謀なんです(笑)。
エンターテインメントに仕立てたほうがいいと思ったので、音楽的な仕掛けや時系列の仕掛けを施して、おばあちゃんの孤独を賑やかに見せようとしました。
なので、意図的に飛ばしたところはあります。お彼岸のシーンは「墓参りパラレルワールド」と呼んでいました(笑)。
2020.11.06(金)
文=黒瀬朋子
撮影=榎本麻美