母からは「修一の映画のなかで一番いいかもしれない」と言われました
――監督は、この脚本をお母様をイメージしながら書かれたそうですね?
最初、なかなかシナリオが書けなかったんです。
うちの母も東北出身で、数年前に父が他界し、関東近郊にひとり暮らし。それならば母のことを書けば桃子さんに重なるのではないかと考え始めたら、筆が進みました。
趣味や庭の木問題、車の営業など、原作にないエピソードはほぼ母の実話です(笑)。
逆にこの脚本を読んで、若竹先生は大丈夫なのか心配になりましたけど、「いいですね」と言ってくださったので、自由にやらせていただきました。
劇中、桃子さんの部屋に置かれている美術や小道具は、僕の実家から持ち込んだものがたくさんあります。おやつがわりの煮干しや薬入れも母のものです。
――毎日、桃子さんが大量の薬を「うまい!」とつぶやきながら飲む場面は笑いました。
そうやって、自分を楽しくしていく(笑)。
薬の量が多すぎじゃないか心配していたら、田中さんが「もっと多いほうがいいんじゃないかしら?」とおっしゃって、すごい量になってしまいました。
――完成作をご覧になってお母様は何とおっしゃっていました?
「他人事とは思えない」と。そりゃそうだよ! と思いましたけど(笑)。
――お母様は、絶対に嬉しいはずですよね。
「修一の映画のなかで一番いいかもしれない」と評論家みたいなことを言ってました(笑)。
――CREA読者は、娘の立場から母親を思ったり、母娘で観たいと思ったりするのではないかと思います。「お母さんも自身の人生を楽しく生きてください」と言いたくなるような。
たぶん、誰もが桃子さんをいろんな角度から見知っている。身近な誰かの話として観てもらえるんじゃないかなと思います。
2020.11.06(金)
文=黒瀬朋子
撮影=榎本麻美