心の声たちの芝居の見え方については、僕も始めるまでは怖かった

――沖田監督は普段、あまり当て書きをされないと聞きましたが、今回も?

 はい。これまで当て書きしたのは『モリのいる場所』の山崎努さんくらいです。

 『おらおらで〜』の心の声は、原作には年齢不詳、性別不詳とありました。中性的な人? 子供? とキャスティングは悩んだのですが、男3人のほうが、親衛隊みたいに見えるんじゃないかと。

 僕のなかでは、『白雪姫』の七人の小人のイメージです。でも、この「寂しさ」役は芝居の上手な人でないと難しい。

 濱田さんと青木さんは、前にもご一緒したことがあり、すごく信頼できる俳優さんでした。宮藤官九郎さんは東北ご出身ですし、寂しさ役が似合いそうだな(笑)と思ってお願いしました。

――ほかにも桃子さん役の田中裕子さん、若い時分の桃子さんに蒼井優さん、桃子さんが愛し続けた夫の周造に東出昌大さん……みなさん当て書きじゃないかと思うほど、はまっていらっしゃいました。

 ああ、よかったです。田中裕子さんの実年齢は、役よりだいぶお若いのですが、僕も大好きな女優さんでしたし、田中さんがやってくださるのなら、それ以上のことはないと思いました。

――拝見しているときには自然に物語へと入りましたが、桃子さんを演じる田中さんの動きに、複数の俳優の声をあてるというのは、実は難しいことなのではないでしょうか?

 僕も始めるまでは怖かったです。田中さんはただ黙々とちゃぶ台でごはんを食べていて、その周りで心の声たちの芝居が始まるって、どう見えるんだろう? と、別の人を立てて、実験したりしていました。

 蒼井優さんが現場にずっといてくださり、田中さんの動きや表情を見ながら声をあててくれたんです。そうでなかったら、不自然に見えていたかもしれません。

――この映画を観てから、自分でも普段、心のなかでいろんな人と話しているなと気づきました(笑)。

 若竹先生も「実は自分のなかには大勢の人がいて、それらが合議制でもって自分の言動を決めているんじゃないか」とおっしゃっていました。

 たしかに、いろんな矛盾した意見が自分のなかに同居していますよね。

2020.11.06(金)
文=黒瀬朋子
撮影=榎本麻美