子役時代から、さまざまな作品で頭角を現し、呉服屋店員を演じたNHK朝ドラ「エール」でも注目を浴びる田中偉登。黒木瞳監督作『十二単衣を着た悪魔』でもキーパーソンを演じている彼が、現場で初めて学んだこととは?
●キッズモデルから俳優の道へ
――幼少時、読者モデルからキャリアを始められたそうですが、そのきっかけは?
母が僕に、いろいろな洋服を着せることが好きで、4~5歳ぐらいのときに、キッズモデルに応募したんです。そのときは事務所に所属していなかったのですが、雑誌だけでなく、ファッションショーにも出演しました。それで7歳のときに出演したファッションショーをきっかけに、事務所にスカウトしてもらいました。
――そのときの田中さんの心境は?
モデルのときは、毎回何着も着替えるのが面倒臭くて、とにかくイヤだったことを覚えています(笑)。スカウトされたときも、両親の「ちょっとやってみたら?」という意見に押されたまま、事務所に入って、よく分からないままレッスンを受けていたので、自分の意志は、ほとんどありませんでした。
――その後、ドラマ「13歳のハローワーク」(2012年)で俳優デビューし、映画『るろうに剣心』(12年)では主要キャラの一人、明神弥彦役で出演されます。
モデルをやっていたので、カメラマンさんに撮られることや、人前に立つことにはまったく抵抗がありませんでした。映画やドラマの現場では何も分からないので、練習したことや言われたことをやっていました。2011年に撮影した『るろうに剣心』が役者のスタートで、「13歳のハローワーク」では現場の楽しさを知りました。そして、この2作で、いろいろな素敵な俳優さんと一緒にお芝居できたことで、役者は深くて魅力的な職業だということを知りました。
●74分間ワンカット撮影で、初めて知った芝居の「熱」
――『るろ剣』の弥彦に関しては、演じる俳優さんが成長期に入ってしまうことで、後に製作される「続編」(14年・21年)では、それぞれ演じる俳優が異なります。
続編でも、僕が演じられたら良かったのですが、やはり身長の問題などもあって難しかったんです。ただ、僕があくまでも初代の弥彦で、そこが基準になっていて、後々の弥彦役が選ばれているという話を耳にしたんです。自分が出演できなくても、その話を聞いたときは嬉しかったです。
――14年の『劇場版 仮面ライダー鎧武/ガイム サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯!』では、仮面ライダー冠/ラピス役を演じられます。
憧れの仮面ライダーのオーディションを受けたときの興奮は忘れられないですし、歴史があるシリーズに、ライダーの一人として参加できたときの喜びはかなりのものでした。出番はわずかだったのですが、今でも特撮ファンの方に覚えていただいていて、とても光栄ですし、忘れられない作品です。
――その後、大きな転機となった作品は?
芝居に対する「熱」を初めて知ったのは、松居大悟監督の『アイスと雨音』(18年)です。74分間ワンカット撮影のとても特殊な作品であることや、ある舞台が中止となってしまったことの怒りから始まる話だったこともあり、「撮り切ろう」という、現場のスタッフ・キャストの熱に溢れていました。まるで演劇やスポーツのようだったんです。それによって、多くの人たちの心を動かせるということも学ぶことができました。
2020.10.23(金)
文=くれい響
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=前田勇弥
ヘアメイク=井坂まあさ