女性が自立するために 貯蓄の三原則は大切

――サッカーで学んだことで、ビジネスに活かしていることはありますか?

 チームワークですね。

 自分は裏方でいい、パスした相手が得点してくれればいいと思っています。セットアップをして、次の人がうまくいくようにしてあげる。裏方であっても、ほかのメンバーが輝いてくれれば、達成感があります。

――今、コロナ禍でWEリーグを船出することについては、どう思われていますか。

 2019年のワールドカップで、日本はオランダに負け、ベスト16に終わりました。ベスト8に入った国は、アメリカとヨーロッパの国々でした。ヨーロッパの国々はどこもプロリーグで成功しているんです。

 2020年に動き出さなければ、なでしこリーグの地位がどんどん後退してしまう。来年WEリーグが始まったとしても、すでに遅れをとっているんです。だから、これ以上遅らせることは考えられませんでした。

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらなくても、立ち上げは始めなければなりませんでした。

――日本サッカー協会の田嶋幸三会長も「この社会の変化をチャンスに変えて、今こそ踏み切るべきだ」とおっしゃっていました。

 世の中が、オンラインミーティングなどニューノーマルにならなかったら、アメリカにいる私が代表理事になるなんて、まずありえなかったでしょう。

 私は2019年11月末にメリルリンチを引退したんです。引退後、新型コロナウイルスの影響で、ミーティングがオンラインになっていきました。

 また、仕事用のジャケットを断捨離しようと思っていたんですが、やはりコロナの関係で寄付する先も受け取ってくれず、まだ手元に残っていました。

 いろんなことが、私がWEリーグのチェアになることとつながっていたんです。お話があったときには、すぐに「やります」とお答えしました。

――WE リーグは、女性が活躍するリーグを目指しているんですよね。

 はい。チームの参入基準に、役職員の50%を女性とすることが示されています。またWEリーグ本体としても、理事にはなるべく女性のかたに入ってもらう予定です。

 アドバイザーという形で外部の有識者を招き、WEリーグに元気をつけてもらうことも期待しています。

――Jリーグは初代チェアマンの川淵三郎さんの尽力もあって、新しい産業にまでなりましたが、WE リーグにもそういったビジョンがありますか。

 女性の社会進出を後押しするようなメッセージを出していきたいと思っています。

 私は仕事と家庭の両立をしてきました。そういうところで私だけでなく、パートナー企業の女性社員と異業種ミーティングを通じて意見を出し合ったり、横のつながりを作ったりして、WE リーグとして発信していきたいです。

 今までと違うことをやらなくてはいけないと思っています。

 なでしこリーグの観客数は、1試合当たり平均1,400人くらい(2018年3~11月)です。コアなファンを大切にするのはもちろんですが、今まで女子サッカーを見たことのない層、少女や女性のかた、女性を雇っているパートナー企業の男性のかたにもスタジアムに来ていただき、WE リーグをマーケティングの場に使う方法などを話し合ったりしたいと思っているんです。

――日本における女性の社会進出について、今後はどうなっていくと思いますか。

 今回のニューノーマルは、家から仕事ができるという点において女性にとってはとてもいいことです。通勤や育児に時間がかかるので、時短という意味ではとてもいい。

 働きかたがニューノーマルになったのを機に、自分の才能を上にアピールするなり、自分の力を表に出すようにしていったらいいと思います。

 日本って自然資源が豊かではないですよね。一番隠れた資源は、女性の力だと思うんです。今、力を持っている男性がそれを理解していかなくてはならないと思います。

 女性に力があるということをわかっている男性と、わかっていない男性、これは完全にふたつにわかれます。女性に対して先入観のある人が一定数いるのは、仕方がないんです。アメリカにもいましたから。アメリカでは女性だけでなく、マイノリティに対する偏見は根強くあります。それはなかなか変えられるものではありません。

 だからこそ、女性を理解している男性には、ぜひ上に立ってもらいたい。女性はそういう社会で、サポートしてくれる、自分の味方になってくれる男性を見つけていくのがいいと思います。

 偏見のない人を見つけて、自分のメンターになってもらうことをおすすめします。女性の上司、メンターを見つけるのは人材が少ない分、まだまだ難しいでしょうから。

――選手には貯蓄についても教えてあげたいと、就任会見でおっしゃっていましたが。

 選手の老後は難しいんです。安心している人はあまりいません。

 夫など頼れる家族がいれば別ですが、自分ひとりで生活していくだけのものを老後に貯蓄するのは大変なこと。

 お金に関しては私が16年間やってきた仕事なので、ぜひ伝えたい。

 長期、積み立て、分散という三原則があって、若いときから始める。株式もひとつの株式ではなく10種類くらいの、ファンドとかインデックスとかでいいんですけど、毎月同じ金額を貯めていくことが大切です。

 上がっても下がってもちょっとずつ買うこと。下がったときには多く買って、上がったときにちょっと買う。それを10年続けたら、ちゃんとお金は貯まります。

 あとは最初から給料から10%天引きにしておく。それをiDeCo(個人型確定拠出年金)や、NISA(個人投資家税制優遇制度)で運用する。給料の90%で生活する癖をつけるんです。

 残ったものを貯蓄しようとするから大変なので、最初に貯蓄するものを取ってしまう。これは選手一人ひとりに教えてあげたいですね。

岡島喜久子(おかじま きくこ)

1958年、東京都生まれ。‘83年、早稲田大学卒業後、ケミカル・バンクに入社。国際証券を経て、2004年~’19年まで米・メリルリンチ勤務。サッカー歴は中学2年時から。1984年、日本女子代表メンバーの主務、’89年に引退。2020年7月より、WEリーグのチェア(代表理事)を務める。現在、アメリカのメリーランド州に在住。

2020.08.29(土)
文=藤森三奈