今まさに国を挙げて女性の社会進出を推進しようとしているマカオ、だからこそ伸びしろのある美しさがとてもまぶしい。なおも素朴さを色濃く残すから、古き良きアジアの微笑みに癒しの力があることを思い出させてくれる。
まさに国の立ち位置と
女性美はリンクする
『クレイジー・リッチ!』というハリウッド映画を見ただろうか。舞台はシンガポールだが、文字通りの“クレイジーリッチ”なアジア人は、もともとは香港に多かった人種。
アジアであってアジアではない。欧米以上に欧米を感じさせるクレイジーな印象はむしろ香港から生まれたものなのだろう。
だから90年代までの香港は、もちろん時代性も手伝って、アイメイクが強く口紅は真っ赤という、エキゾチックでセクシーな女性が意外に多く目についた。
しかし、中国返還による“共産主義にして資本主義”という奇妙なバランスが、女性のイメージを少しずつ変えていったのだろう。
今回の大規模なデモは女子大生が一つの中核をなしていたといわれるが、次世代の女性たちは国際的な感覚を持ちつつ、アジア人の勤勉さを感じさせる知的な印象。
「私たちは中国本土の中国人とは違う」というある意味の自負が、彼女たちを老成させ、洗練させるのかもしれない。また異常に狭い土地に世界中から最も人が集まるビジネスの街、知らず知らず闘争心のようなものが宿り、多くの人が成功願望を持つといわれる。
当然のように英語をしゃべり、進学率も高い。そのせいか「香港女性は最も気が強い」との説もあるが、それも自分の意見をしっかり持っているがゆえの知的な強さ。
若い女性が、初々しさと強さを両方併せ持つのは、香港が複雑な要素を併せ持つからなのだろう。結果として、何だか世界中のどこでも通用する理想的な女性像が出来上がっている。
さて本来は医食同源が行き渡っている土地柄、いつの間にかメイクには頼らないシンプルなビューティーが主流となりながらも、キャリア志向は強めなだけに、表現は凜としてクール。それが今の香港美人と言えるのだろう。
もちろんとてつもないお金持ちもどこかに潜んでいる。同じアジアながら日本人にとってはとても遠い国……女性たちを見るとそう思わざるを得ないのである。
ちなみに香港美容と言えば、昔からツバメの巣、近年はシートマスク状のツバメの巣が大流行している。
日本でも絶大な人気を誇るワトソンズのシートマスクが今や買いだめアイテムとなっている。
しかしその絶大な美容効果を得たいなら、やはり食べること。ゼリー状の食感は何と言っても潤いと弾力のもと、ムチンが主成分であり、コラーゲンやヒアルロン酸をサポートするシアル酸、上皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)が含まれていることも分かってきたが、楊貴妃も西太后も美容として毎日欠かさなかったとか。
さて一方のマカオは、長い間ギャンブルの街だったことで、女性たちは逆に控えめ。
今まさに女性の社会進出を、国を挙げて推進しようという段階であり、良い意味で伸びしろがたくさんある美しさが見ていて清々しい。
今やアジアの国々も大きく様変わりし、微笑みの国タイの女性も非常に積極的になってきた。そういう意味でマカオの女性たちは際立って素朴。古き良きアジアの微笑みに癒しの力があるのを思い出させる。
スッピンではなく、「化粧気がない」。素朴さが持つ汚れなさにはもう真似のできない美しさがあり、やはり心を動かされる。
顔立ちも肌の色も日本人と変わらない近隣アジアに行くと、何か襟を正される思いがするのはなぜなのか。
たまには出かけて行って、ただただ女性たちを眺めてみる、それも一つの美容である。
齋藤 薫(さいとう かおる)
美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌で数多くの連載を持ち、化粧品の解説から開発、女性の生き方にまで及ぶあらゆる美を追求。エッセイに込められた指摘は的確で絶大なる定評がある。この連載では第1特集で取材した国の美について鋭い視点で語る。各国の美意識がいかに形成されたのか、旅する際のもうひとつの楽しみとして探る。
Column
齋藤薫さんは、女性誌で数多くの連載を持ち、化粧品の解説から開発、女性に生き方に及ぶあらゆる美を追求している。この連載では、CREA Travellerが特集において取材した国の美について鋭い視点で語っていく。
Text=Kaoru Saito
Photo=Takashi Shimizu,Atsushi Hashimoto,Hirofumi Kamaya(cutout)