仲良くなったら 抑えてたものが全部出てきた

松永 もともとお互いのことは認識してて、ツイッターも相互フォローだったんですけど。必ずどこかで巡り合う! と思っていて。

 だから絶対にDMはしない、「いいね」もリツイートもしない。「会いましょう」とか言うの、なんか違う気がして。そしたら全然巡り合わないまま、1年ぐらい経過して(笑)。

 でも若林さん、何を思って会わせたんだろうね?

朝井 「ふたりは絶対に会ったほうがいい」って言われました。たぶん、個人個人で苦しんでるように見えたんじゃないかな?

松永 傷のなめ合いをしたほうが生きやすいんじゃないかと(笑)。

朝井 その時私、28歳とかだったんですけど、こまごまとしたことを一緒に楽しんでくれる人が減っていっていたんです。

 同世代の友人は子どもが生まれたりして、興味関心も変わっていっているし、こまごまとしたことを話しても疲れさせちゃうな、みたいな……そんな時に(松永に)会って、ご飯を食べに行ったんです。

 そこが、野菜を5種類選んで鉄板で焼ける、みたいなお店だったんです。「別になんでもいいな」と思いつつ、大人として「どれがいいですか?」って訊いたら、返す刀で「でも野菜って全部同じ味ですよね」って言われたんです。感動した。

 そういうことを言ってもまわりが笑わなくなってきていて、そういうのはもうやめたほうがいいのかな、と思っていた時だったから。

松永 そこで食い物にこだわるその感じが、社交の武器の一種だったりするじゃないですか?

朝井 そう。そこで「野菜って全部同じ味ですよね」って言うのは、めちゃくちゃ邪魔じゃん?

松永 超邪魔だよね。

朝井 どんどん自分が邪魔な側の人間になっていってるな、つらいな、っていう自覚があったので、脳に雷が落ちました。「この人今までどこにいたの?」と。

松永 だから、つらかったです。

朝井 はははは!

松永 そういうのを共有する人がいなかったので。朝井リョウと仲良くなって「あ、俺、こんなに封じ込めてたんだ?」と自覚しました。

 仲良くなったら、それまで抑えてたものが全部バーッて出てきたんですよ。だから、その状態で普段の社会生活に戻ると、生きづらくて。

 まわりにチューニングを合わせづらくなったというか。分かり合えすぎる人とずっと一緒にいると、私生活に影響が出る。

朝井 そうだね。

2020.05.17(日)
文=兵庫 真司
撮影=松木 宏祐

CREA 2019年11月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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