王羲之は穏やかで人間的な弱さも抱えた人物
六朝時代を生きた人間としての王羲之は、名家に生まれて東晋の官僚を務めたものの、熾烈な中央政界で理想を貫き通す強さを持つことができず、地方官へ転出。やがて政界そのものから身を引き、隠遁の暮らしを選んだ。巨大な国をまとめた英雄や大思想家たちとは違う、穏やかで、人間的な弱さも抱えた人物だったようだ。だからこそ──というべきか、王羲之が残した書には、心中の哀歓や、ごくささいな日常の風景が綴られた手紙が多い。王権が発する政治文書ではなく、政治に挫折した官僚個人の哀歓を描く文章が書の歴史の上に台頭する、その始まりでもあったのだ。
やがて初唐の時代に、篆書や隷書など石に彫る書体と、紙の上に速度を持って書くために生まれた草書や行書などの書体が合流、甲骨文に始まる文字の流れすべてを吸収した大書体、「楷書」、そして私たちがいま見、「習字」として習う三折法(王羲之は二折法を確立、三折法の端緒も開いた)が完成する。ここを起点として、書の流れは多彩に広がっていった。アジアの東の果て、日本に住む私たちもまた、その流れの一端に連なっているのである。
日中国交正常化40周年 東京国立博物館140周年 特別展「書聖 王羲之」
会場 東京国立博物館
会期 1月22日~3月3日
休館日 月曜日(ただし2月11日は開館、翌12日は休館)
開館時間 9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで。ただし、3月1日は20時まで開館)
料金 一般1500円
問い合わせ先 03-5777-8600(ハローダイヤル)
※会期中、作品の一部に展示替えあり
Column
橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」
古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。
2013.01.12(土)