意外なほどピュアな
横浜銀蝿の歌詞に悶絶
横浜銀蝿の楽しさのもう一つは「わかりやすさ」である。キャッチーなメロディに乗せられた世界観は、意外なほどシャイで健全で、良い意味で単純だ。
「ツッパリHigh School Rock'n Roll(登校編)」は開始早々「いってきまーす!」とちゃんと挨拶するのも微笑ましい。
「ツッパリHigh School Rock'n Roll(試験編)」は、「たまには父親を喜ばせたい」という気持ちで試験を頑張る。泣ける。結果はともかくとして、気持ちが泣ける。
「尻取りRock'n Roll」に至っては「アライグマ! マントヒヒ!」と動物縛りの尻取りで終わる、とってもカワイイ曲であり、ロックと童謡はお友達ということを証明してくれた。
このように、横浜銀蝿の曲の主役たちは、タイマンや夜更かしやスピード出し過ぎはあるが、大人への怒りや破壊行為的な表現は驚くほど少ない。
大部分が「生きるのヘタだけど頑張りたい」。もしくは「好きさすきさ、あの娘がすきさ! この気持ちどうすりゃいいんだよ」といった、持て余したパッション讃歌だ。
時々、現実生活で心配をかけていただろう親や友人恋人などへの罪悪感や感謝もそこはかとなく漂って切なくなる。
横浜銀蝿のリーゼント。それは若さゆえの反逆の証では無く、ピュアな心の奥底を歌うカナリアのクチバシだったか。嗚呼、純情……。
彼らが紡ぎ出す不器用な応援歌は、時代を超えて私に元気をくれている。
どうせヘッドライトに映し出されるなら、哀しみよりもあなたの笑顔がいい。暗い目をして拗ねていないで、走り出そうぜ、と!
完全復活した横浜銀蝿40thが、若い頃とは違った、テカテカなシニアの魅力でどう仏恥義理ながら飛ばしてくれるのか楽しみ過ぎる。夜露死苦ロックンロール!
Column
田中稲の勝手に再ブーム
80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。
2019.12.15(日)
文=田中 稲
撮影=田中 稲、文藝春秋