2枚のジャケットを
見比べてみたら……

2005年にリリースされた『旅路のはてに歌ありて』は、「長崎は今日も雨だった」「津軽海峡冬景色「北酒場」といったカバー、そして「長良川艶歌」「よこはま・たそがれ」など自身のレパートリーを収録。旅情を感じさせる名曲が満載である。
2005年にリリースされた『旅路のはてに歌ありて』は、「長崎は今日も雨だった」「津軽海峡冬景色「北酒場」といったカバー、そして「長良川艶歌」「よこはま・たそがれ」など自身のレパートリーを収録。旅情を感じさせる名曲が満載である。

 俺は、これに似たアルバムを持っている。えーと何だっけ、……あれだ!

マルコス・ヴァーリが自らの名前を表題に掲げた1983年のアルバム『Marcos Valle』。なお、この人は70年と74年にも同じ『Marcos Valle』というセルフタイトルのアルバムを発表しているので、購入時は注意が必要である。『あぶらだこ』みたいなものですね。
マルコス・ヴァーリが自らの名前を表題に掲げた1983年のアルバム『Marcos Valle』。なお、この人は70年と74年にも同じ『Marcos Valle』というセルフタイトルのアルバムを発表しているので、購入時は注意が必要である。『あぶらだこ』みたいなものですね。

 ブラジル人シンガーソングライター、マルコス・ヴァーリのアルバム『Marcos Valle』である。

 並べてみよう。

最高! 俺は今、アパートの畳の上に並べたジャケットの中のこの2人と乾杯を交わし、べろんべろんに泥酔しながらこの原稿を書き殴っているよ。
最高! 俺は今、アパートの畳の上に並べたジャケットの中のこの2人と乾杯を交わし、べろんべろんに泥酔しながらこの原稿を書き殴っているよ。

 似ている。

 そのシチュエーション設定は言わずもがな、原色とパステルカラーを効果的に配したデザインの美学が通底している。

 俺は地面に向かって叫びたい。ブラジルの人、聞こえますかー!

 1964年のデビューから、サンバ、ボサノヴァ、ロック、ソウル、ファンク、フュージョン、AORなど、さまざまなジャンルを横断するグルーヴィーな音楽を届けてきたマルコス・ヴァーリ。

 それに対し、五木ひろしのデビューはマルコスに1年遅れる1965年(ちなみに、『旅路のはてに~』のジャケット内のテレビ画面に映っているのは、64年に行われたコロムビア全国歌謡コンクールにおいて優勝した際の五木の姿とおぼしい)。ほぼ同期なのだ。

2017年末の紅白歌合戦のリハーサルにて熱唱する五木ひろし。故郷の福井県美浜町で行われる「美浜・五木ひろしふるさとマラソン」は、すでに31回を数える長寿イベントとなっている。
2017年末の紅白歌合戦のリハーサルにて熱唱する五木ひろし。故郷の福井県美浜町で行われる「美浜・五木ひろしふるさとマラソン」は、すでに31回を数える長寿イベントとなっている。

 そして、ご存じの方にとっては先刻承知だろうが、五木ひろしの音楽的興味の範囲は幅広い。これまで、レコーディングやライブで披露してきたカバー曲は数知れない。

 その中には、SMAP「世界に一つだけの花」、DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」、安室奈美恵 with SUPER MONKEY’S「TRY ME ~私を信じて~」というヒット曲、そしてなぜかピクミンの「愛のうた」などという変わり種まで含まれる。

 2015年にNHKで放送された「五木先生の『歌う! SHOW学校』」なる冠番組にて、三代目J Soul Brothersの「R.Y.U.S.E.I.」をランニングマンの振付まで含めて華麗に歌い踊ったことは記憶に新しいだろう。

 そもそも、演歌の世界にR&Bのフィーリングを持ち込んだという意味で、この人の功績は計り知れない。演歌歌手という先入観を取っ払って、「待っている女」「よこはま・たそがれ」を改めて聴いてほしい。紛れもない和製R&Bの逸品がそこにある。

2019年4月、安倍晋三首相が新宿御苑において主催した「桜を見る会」での一コマ。中央が五木ひろし。
2019年4月、安倍晋三首相が新宿御苑において主催した「桜を見る会」での一コマ。中央が五木ひろし。

 事細かな理路は断腸の思いで省略するが、そんな五木ひろしがブラジルのグルーヴマスター、マルコス・ヴァーリの存在を意識していたとて微塵も不思議なぞないのだ。

 ということで、北半球と南半球、地球の表裏で共鳴する五木ひろしとマルコス・ヴァーリのシンクロときめきっぷりを、アートワークの面からさらに検証していくこととしよう。

2019.06.17(月)
文・撮影=ヤング
写真=文藝春秋