ピーナッツの食物繊維と
脂肪のおかげでスッキリ

ピーナッツを食べる前後のお通じの回数比較。
ピーナッツを食べる前後のお通じの回数比較。

 この結果は、欧米で行なわれた研究とも一致します。ある論文では、70グラムのピーナッツを7~9日間食べたところ、食べていないときに比べて便の重量が約14%増えたそうです。

 先行研究では、便の中に排出される脂肪分が増えることも報告されています。こうしたことから、ピーナッツを食べると便通が改善される理由は、豊富に含まれる食物繊維や脂肪の影響だろうと考えられてきました。

 それに対して今回の研究は、腸内細菌の観点から検討を加えています。腸内細菌には、「善玉」の乳酸菌やビフィズス菌、「悪玉」の大腸菌やウェルシュ菌。善悪どちらの力も持つ「日和見菌」として、連鎖球菌などの種類があります。腸の中では、これらの菌がペーズリー柄のように群れを作っているので、腸内細菌全体を細菌叢(フローラ)と呼んでいます。

 今回の研究では、被験者の便の中の主要な腸内細菌を測定しています。便に含まれるバクテロイデス(桿菌)という筒状の菌が全ての菌に占める割合を調べ、30粒のピーナッツを8週間食べた後の値を、食べる前の値と比べました。

 バクテロイデスという菌には、有用な糖質を生産し、腸を活発に働かせて便通をよくする効果があると報告されているのです。

ピーナッツが腸内細菌を
改善するという新発見

 バクテロイデスの量は、被験者16人全員の平均では大きな違いが見られませんでした。一方で、ピーナッツを食べる前は「便通が週4回以下」の便秘傾向だった被験者だけを対象に調べると、増えていることがわかりました。

 このことから、便通が改善した被験者は、腸内細菌の状態も改善していたといえます。ピーナッツのもたらす便通改善は、食物繊維や脂肪だけでなく、腸内細菌の変化に起因していることも明らかになったのです。日本人がこのような解明を行なったことは、ピーナッツ研究にとって大きな進歩です。

 世界的には、ピーナッツのように大量のポリフェノールを含む食品を食べると、腸内でポリフェノールが分解され、様々な健康効果を持つようになるという研究も進んでいます(Mol Nutr Food Res.2015; 59(6), 1025-40)。

ハーバード大の研究でわかった
ピーナッツで長生き!

著・井上浩義
定価1,300円+税
文藝春秋
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井上浩義(いのうえ ひろよし)

1961 年福岡県出身。慶應義塾大学医学部教授。医学博士、理学博士。九州大学理学部化学科卒業。同大学院理学研究科博士課程修了。専門の薬理学、原子力学、高分子化学のみならず「食と健康」についても造詣が深く、ナッツやえごま油など「健康によい油」の有用性研究の第一人者でもある。NHK『あさイチ』などテレビ出演多数。著書に『知識ゼロからの健康オイル』(幻冬舎)、『カカオでからだの劣化はとまる』(世界文化社)、『食べても痩せるアーモンドのダイエット力』(小学館101新書) など多数。