オールドカイロで
聖書の世界に触れる

 カイロの南部に位置するオールドカイロは、ファラオたちの古代エジプトでも、コーラン響くイスラムの世界でもない、まったく別の顔を見せる。

 その街並みにはエジプトにおけるキリスト教の一派、コプトの人々の受難の歴史が刻まれている。

 エジプト国民の約1割が信仰しているコプト。紀元前40年頃に福音書を記した聖マルコによってもたらされ、2世紀にはアレキサンドリアを中心に全土に広まった。

 その後、ローマ皇帝によるキリスト教弾圧や、宗教議会で異端とみなされての抑圧、アラブ民族の侵攻によるイスラムへの改宗など、苦難の道を歩む。そんなコプトの人々が逃げ込んだのがオールドカイロだった。

 細い路地裏を抜けて、バシリカ様式の聖セルギウス教会へ。

 幼子だったイエスとマリア、ヨハネの聖家族がヘロデ王のたくらみから逃れてエジプトへ渡り、3カ月間にわたり隠れたという地下道の上に教会は立っている。

 地下に降りてその場所を前にすると、新約聖書に出ていた “エジプトへの逃避”が、にわかに現実味を帯びてくる。

 この国最古の8世紀に建造されたベン・エズラ・シナゴーグは、預言者モーゼがファラオの王女によって川から救い上げられた場所とされる。

 その向かいの聖バルバラ教会は、7世紀に建造され、11世紀に修復された初期コプト教会。殉教した聖バルバラをまつる教会では、乳香たちこめる教会内に強いひとすじの光が差し込んでいた。

2018.12.31(月)
文・撮影=古関千恵子