◆私の愛する香港スター

マイケル・ホイと『Mr. Boo!』の魅力

 さて、今回は私の大好きなスターのひとり、マイケル・ホイと映画『Mr. BOO!』シリーズについてです!

マイケル・ホイ(Michael Hui)/許冠文

1942年9月3日中国広東省生まれ。幼い頃に両親と共に香港へ移住、大学在学中よりショー・ビジネスの世界に飛び込み、卒業後、中学教師などを経て、71年 弟のサミュエル・ホイと組んだバラエティー番組で一躍人気者に。72年 ショウ・ブラザース社の映画『大軍閥』の主演に大抜擢され、74年に兄弟と独立プロダクションを設立。その後ゴールデン・ハーベスト社と組んで、監督・脚本・主演の作品でコメディー映画の一時代を築く。

 長男マイケル、三男リッキー、四男サミュエルのホイ兄弟と言えば香港映画好きな人には説明するまでもないでしょう。

 『Mr. BOO!』シリーズの日本でのテレビ放映時、「恩に着るです燕尾服」「オバン泣かせのギャル殺し」など、過剰なまでにダジャレを盛り込んだ広川太一郎によるマイケル・ホイの吹き替えも魅力です!

 ここで、特にお気に入りの3作品をご紹介します。


#01
『Mr. BOO! (ミスター・ブー)』
(原題『半斤八兩』)
●76年製作/79年日本公開

 このシリーズにおける日本公開第1作。赤字続きの弱小探偵事務所所長(マイケル・ホイ)、マヌケな助手(リッキー・ホイ)、探偵志望の青年(サミュエル・ホイ)が行く先々で巻き起こす大騒動。ジョーズの顎と腸詰めヌンチャクの対決など、爆笑珍場面の連続です!

 高層ビルでの宙づりなどかなり危険なこともやっておりますが、改めて観てみるとクローゼットの中に隠れていたマイケルが追いかけてきた警察にあからさまにバレバレで見つかりそう、まさにその瞬間、咄嗟に「な~んもいまへん」と一言、警察が去っていくシーンがあります。そんな大したシーンでもないのになぜだか苦笑混じりの思い出し笑いをしてしまいます。

#02
『Mr. BOO!  インベーダー作戦』
(原題『賣身契』)
●78年製作/79年日本公開

 シリーズ中2番目の日本公開作。端役続きで売れない中年タレント(マイケル・ホイ)が、架空のテレビ会社、マウスTV社とキャットTV社の過激な視聴率争いをネタにドタバタギャグを展開。マウスTV社では視聴率が低いと、制作局長は責任を取らされビルから飛び降り自殺をさせられるなど、非常にブラックな一場面も!

 トラックの荷台から落ちるタイヤの中に隠れたマイケルが広川太一郎の吹き替え「痛イヤ痛イヤ」に合わせて派手に階段を転がり落ちるシーンの撮影では負傷して10日も入院することになったのだとか。コメディーといえどさすが過酷な香港映画界です。

 変な宇宙人のようなコスチュームで踊っているシーンでは、いったん踊りの振りを全て覚えてから、その後に全く逆の動きでいかにも間違えている風に踊らなくてはいけないので、一番苦労もしたとか。劇中でのマイケルの中途半端な女装は、顔だけで言ったらとても他人だとは思えません(笑)。

#03
『Mr. BOO!  ギャンブル大将』
(原題『鬼馬雙星』)
●76年製作/79年日本公開

 日本公開順としては3番目。服役中のいかさまギャンブラーの兄貴(マイケル・ホイ)は新しく相部屋になったギャンブル好きの青年(サミュエル・ホイ)と早速意気投合、出所を機にクイズ番組やドッグレースの優勝賞金など一発逆転の金儲けにのめり込んで行きます。

 見どころはやはり、クイズ番組に出場するシーンでしょう。正解が出せないと席の位置がどんどん下がり、ワニのいる水槽に沈んでいってしまいます。偽物だか本物だかわからないワニも不思議と可愛く見えてきます。

 この作品の役柄ではベティ・ティンペイ(実生活ではブルース・リーの愛人として知られた)が演じる妙にお色気ムンムンの愛人なんかもいたりします。マイケル・ホイはなぜか色っぽい愛人や金髪女性が傍らにいると、女に興味ないふりして好色そうな魅力にさらに磨きがかかります(笑)。

 この作品は製作年が一番古いのですが、他の作品に比べ悲哀と哀愁が色濃い気がいたします。クレジットはされていませんが、本作と『Mr.Boo!  天才とおバカ』(75年製作/日本未公開)は助監督があのジョン・ウーなのだとか!


 香港と日本では公開順が異なっており、関連のないそれぞれの作品に日本独自の『Mr. BOO!』『新Mr. BOO!』と名をつけられた作品がまだまだあります。なんでも「燃えよデブゴン」にしちゃう感じと一緒です。

 『Mr. BOO!』の中ではケチで好色でずるそうだけど憎めないキャラのマイケルですがとにかく多才です。

 監督・脚本・主演をこなし、役作りのために専門家から特訓を受け、まったくダメだったギャンブルをマスターしたり、ロースト料理の有名店で修業をしたりするほどの徹底ぶり。身体の動きもキレキレで、危険なシーンもスタントを使わないし、実は歌だって上手。抜群のコメディー顔なのに知性とバイタリティーの塊なのです!

 『Mr.Boo!』はやっぱり日本語吹き替えでないと、という方も多いと思いますが、吹き替えでなくて肉声でも全然OK、そんな風に思えたらもう立派なマイケル・ホイ迷(迷というのは広東語でファンという意味)です。

 どことなく哀愁漂う顔にあの早口でまくしたてる広東語だってたまらん肉まん担々麺です! ケチで好色でずるそうな役をやっていてもなんやかんやつぶらで可愛い目をしてますもんね~。

 サミュエルが映画『悪漢探偵』(82年製作/83年日本公開)出演のため、新興の映画会社であったシネマシティと契約してしまい、マイケルが一人で頑張っていた時期もあります。しかし『フロント・ページ』(90年製作/92年日本公開)では9年ぶりに三兄弟揃っての共演を果たします。

 リッキーは2011年に亡くなってしまい、残念ながら3人揃った活動を見ることはもうできませんが、サミュエルは現在も精力的に音楽活動を続けています。

 もしも『新世紀Mr. BOO!  ホイさま カミさま ホトケさま』(04年製作/日本未公開)のようなリメイク作品がまた実現するならば、一瞬のおばさん役でもいいから私もキャスティングにねじ込んでいただきたいものです……!

2018.09.09(日)
文・撮影=伊藤修子
撮影=佐藤 亘