スイートワインを造るのはセレブリティ!?

スイートワインが出来るのは、ブドウの実の中でも、一見しなびたように見える茶色い粒。

 ボルドーのソーテルヌ、バルサック、ルピアック、カディヤック、セロンは貴腐ワイン(スイートワイン)を生産するAOCとして名高い。そして、繊細で洗練されたスイートワインは、デザートワインとしてではなく、食事のコースにマリアージュしても楽しめるという。これら5つの地域を回り、スイートワインの造り方を学んで試飲をしたが、驚きの連続だった。

 一般のワインは1本のブドウの木から1本のボトルが造れるが、スイートワインは1杯しか造れないという。なぜなら、ボルドーのスイートワインは、ブドウにボトリティス菌という菌(カビ)がついて糖度が増すことで造られるのだが、均一につく訳ではないので、一粒一粒、状態を見ながら手摘みするという気の遠くなるような収穫方法を取る。なので、人件費も一般のブドウが1ヘクタールあたり600ユーロなのに対し、2,000ユーロもかかるというので、高価になるのもいたし方ない。

「シャトー・ドーフィネ・ロンディロン」では、「せっかくだから古いヴィンテージを飲みましょう」と、1976年と1988年のワインを気前よく出してくれた。

 AOCルピアックの「シャトー・ドーフィネ・ロンディロン」で、前菜からメイン、最後のチーズまですべてがクリエイティブな野菜料理の9品コースに、7本の異なるスイートワインを合わせるというランチをいただいた。

根セロリのグリルにスパイシーなピメント(左)、そしてズッキーニと塩麹、ナスと醤油麹(右)というシンプルな野菜料理。スイートワインがより料理の味を引きたてる。
この日料理を作ってくれたオレリアン・コザトさんは名シェフのミシェル・ブラスの元で働いていたそう。ディレクターのサンドリン・ダリエ・フロレオンさんと。

 確かに、ただ甘いのではない。それぞれに柑橘系の味が強いもの、まったりした甘みのあるもの、うまみを感じるものと個性がある。そして、伝統的にはフォアグラやチーズが合うと言われるスイートワインだが、コリアンダーや胡椒はじめ、スパイシーな料理にもとても合う。

シャトー・ビヤックのバルコニーから見た風景。川を望む丘陵地にブドウ畑が広がる。

 その後に訪れた「シャトー・ビヤック」は600年の歴史のあるシャトーを現オーナーのレバノン人ご夫婦が買い取り2006年からスタートしたというが、その美しいワイナリーの風景に思わず息を呑む。

 赤ワインも造っている広い敷地内には、4つの異なる土壌の畑、17世紀から20世紀まで各世紀に建った建物が並ぶ。開設が2006年だけあって施設はピカピカ。セミヨンという白ブドウを100%使い、醸造は全て新樽で、樽ごとに焼き方を変えていて、同じ樽を2度は使わない。

左:スイートワインと、伝統的に合うというフォアグラ、そしてなんと日本人ケータリングシェフによるずんだ豆腐が。
右:きれいな新樽がずらりと並ぶシャトー・ビヤック。

 ご馳走になったワインは、甘過ぎないのに舌には長く余韻の残る深い味わい。すべてにお金をかけたセレブなワイン造りに驚いていると、案内してくれたオーナーの奥様は、さらりと「私の先祖は400年レバノンを統治していた王族なの」とさらりとおっしゃった。

最初に訪れたバルサックのシャトー・ド・ミラも13世紀から続くシャトーを1988年にリノベーション。経営陣のお二人も上品。

 そう言えば、最初に訪れた「シャトー・ド・ミラ」でも、上品なマダムが「ここは、昔からボルドーから上流の人が来て静かに週末を過ごす土地柄なのよ」とおっしゃっていた。

 手摘みで一粒一粒、醸造に適したブドウの粒を毎日選んで摘むので、収穫期間も毎年9月末から2カ月近くかかることがある。そして、一度の大雨ですべてがダメになることもあるというワイン造りは、余裕がないとやっていけない。それでも素晴らしいワイン造りには何事も代え難いというオーナーの情熱が今のスイートワインを支えている。

2016.10.13(木)
文・撮影=小野アムスデン道子