「着うた」時代の寵児となった Ms.OOJAの大ヒットの方程式って？

説得力のある言葉がストレートに伝わる

山口 この頃は、僕はまだher0ismと交流はなかったけれど、ミュージックビデオ×ブログ＝着うたヒットの最高峰の一つとして「Be...」は認識していましたよ。いろんな意味でエポックメイキングなヒット曲だったんですね。

伊藤 はい。今回の「You are Beautiful」の作曲・編曲は5月のクリエイターズキャンプ真鶴〈外部サイト〉にも参加していたRyosuke“Dr.R”Sakai。オレの周りで才能があってトレンドに敏感なクリエイターやアーティストが、Ms.OOJAと一緒に仕事しているなって印象。彼女、クル予感します。

山口 着うた系と言われるジャンルが生まれて、一番のスターは西野カナだと思いますが、もう、彼女を「着うたのプリンセス」とか言う人いないですよね(笑)。Ms.OOJAも本格的なシンガーとしてもっと活躍の場を広げていくことを期待しています。本来は、ディーヴァ系と言われる、女性R&Bシンガーの系譜の人ですよね。Sugar Soul、MISIA、とヒット曲がでてきたジャンルです。宇多田ヒカルは、ジャパニーズR&Bムーブメントに押されて歴史的なミリオンセラーを出しました。

伊藤 そうでしたね。「You are Beautiful」には西野カナとは違った世界観が溢れています。Ms.OOJAらしさ。歌のディープさとマットな感じがデビュー当時のレオナ・ルイスを彷彿させて、洋楽っぽさと日本語がいい感じにマリアージュしていて心地よい。R&Bなんだけど、ブラック過ぎない感じが好きですね。

山口 歌詞の世界観も、親のことを歌っていたりと、大人な感じですよね。「親孝行したい時には親はなし」とか「親の心子知らず」とか、ことわざを思い出してしまいました。自分が親不孝なので、余計に響いたのかもしれません(笑)。

伊藤 それはダブルA面のもう1曲「あなたに会えなくなる日まで」ですよね。こっちはTHE・ジャパニーズR&Bという感じのバラードになっています。「You are Beautiful」のほうは“戦う女性”を歌っています。“弱さ”と向き合った純粋さと、しっかり前を見据えた表情・ファイティングポーズが見えるような力強い歌詞になっています。とにかく説得力のある言葉がストレートに伝わってきて、こういう曲を必要としている“戦う女性”が世の中にたくさんいると思う。頑張っている彼女たちに刺さる曲になっています。

山口 そんな戦う女性の応援歌に、フェミニスト伊藤涼はどんな妄想分析が浮かぶのでしょう？

伊藤 彼女はハンマーを振り上げ、力を込めて振り下ろす。汗を含んだ長い髪、むき出しで焼けた腕、女性らしく引き締まった脹脛(ふくらはぎ)。次の瞬間に、灼熱の太陽の中で金属と大地がぶつかる音が響く。彼女は何度も何度も大地を叩く。

 男たちが遠巻きに彼女を見つめる。彼らは筋肉で太くなった身体を持て余し、酒を飲んだりおしゃべりしたりウロウロするばかり。一人の男が彼女に向かって何かを叫んだ。その濁声に反応した彼女は身体を起こし、歯を食いしばっているとも笑っているともいえる顔で男たちを一望する。そして、ゆっくりとハンマーを肩に担ぐ。どこかの英雄のように。

山口 ギリシャ神話のような、SF映画のような……。

2016.08.31(水)
文＝山口哲一、伊藤涼