ヨハネスブルグで“南アフリカの今”を体感

ヨハネスブルグにある「アパルトヘイト博物館」。国内外から、さまざまな人種の人が見学に訪れる。

 ブッシュでは夢のような時間を過ごし、ふたたび国際空港のあるヨハネスブルグへ。いよいよ翌日は帰国の日だ。ここでは、念願の「アパルトヘイト博物館」を訪問。

 アパルトヘイトとは、南アフリカで50年近くも続いていた人種隔離政策。アパルトヘイト時代は、暮らすエリアも、駅のホームも、公共の施設も、すべて人種によって分けられていたという。全人種が参加する南アフリカ初の民主的な選挙が行われ、この国が民主主義国家となったのは、1994年のこと。

 この博物館では、遠い日本に暮らす私たちにはなかなか届かなかった南アフリカの史実を知ることができる。

左:入り口は2つに分かれている。1つはWHITES(白人用)、もう1つはNON-WHITES(白人でない人用)。来訪者は、手渡されたチケットに記されたほうのゲートから入場する。もちろん、チケットは肌の色に関係なく、ランダムに振り分けられる。
右:館内の通路も鉄格子によって仕切られ、それぞれ違った視点で展示を見ることになる。来訪者は、「差別」をリアルに体験しながら、館内を見学する仕組みだ。

 もう1カ所、どうしても行きたかったのが、ソウェト。ヨハネスブルグにいくつかあるタウンシップ(アパルトヘイト時代、非白人を強制的に隔離し住まわせた居住区)の中でも最大規模のもので、ネルソン・マンデラ元大統領もここに暮らしていたことがある。現在は一般の住宅エリアとなり、大型ショッピングセンターや立派な病院、2010年のワールドカップが開催されたサッカー場もある。

ソウェトのホテルに描かれたアートにも、自由を求めて戦った人たちの気持ちが刻まれている。

 ここは以前に訪れてカルチャーショックを受けた場所。ともすれば隠したい過去を、堂々と外国人にも見せ、そしてアパルトヘイトを知らない今の南アフリカの人にも伝えようとするこの国の姿に、強さや懐の深さを感じたのだ。

 3年ぶりのソウェトは、開発も進み、より活気に溢れていた。ここに暮らしているガイドの女性によると、「ソウェトにだって、貧しい家もあればリッチな家もあるわ。白人も、黒人も。住民にとって、ここは大切なホームタウンなのよ」。地元で人気のカフェレストランでは、英語のほかにさまざまな言葉が飛び交っていて、さすがは公用語が11言語もあり、多くの人種が暮らす国だと実感。

ソウェトにあるオーセンティックな南アフリカ料理レストラン。いろいろな人種の人が楽しそうに食事をしている。

 異なる色が重なり輝く虹のように、多数の人種が融和する国、南アフリカ。ネルソン・マンデラが「レインボーネーション」と称えたとおり、ここは本当に文化が多彩で好奇心を誘う国。ブッシュでのサファリも、ラグジュアリーなロッジでの時間も、そして日本とは全く違ったカルチャーも、「未知の世界を見てみたい」という旅心を満たしてくれた。

 日本からは遠く離れているけれど、またきっと、この国を訪れる気がする。

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオ ノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn

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2016.08.25(木)
文・撮影=芹澤和美