「まさか自分に声がかかるとは思っていなかった」――そう語ったのは、歌舞伎界を代表する名優・片岡仁左衛門だ。2026年7月27日、都内の帝国ホテルで行われた「TACHIHI presents 立川立飛歌舞伎特別公演」第4回の製作発表会見。その場には、初登場となる片岡仁左衛門・片岡孝太郎の親子をはじめ、昨年に引き続き出演する市川中車、中村壱太郎、市川團子が顔をそろえ、会場は開演前から熱気に包まれた。
今年4回目、地域に根づく歌舞伎公演の歩み
会見の冒頭、主催の株式会社立飛ホールディングス代表取締役社長・村山正道が登壇し、この公演が始まった経緯を語った。
「元々は、地域の皆さんに本物の芸術文化に触れてほしいという思いから、創立100周年事業のタイミングで、ご縁があって始めた経緯がございます」
第1回という名称には「続けるという意味を込めていた」とも明かした村山社長。その言葉どおり、公演は着実に回を重ね、今年で4回目を迎える。会場である立川ステージガーデンは収容2,500人規模を誇り、花道の長さは歌舞伎座の約2倍にも及ぶという大空間だ。「立川立飛でしかできない歌舞伎を定着させたい」という言葉に、主催者の強い意志が滲んだ。
嬉しい変化として村山社長が挙げたのは、着物姿で来場する観客の増加だ。「女性が和服を着てお見えになる方がかなり増えてまいりました」と笑顔を見せ、今年は着物来場者への特典も用意していることを明かした。
松竹・山根副社長「今年は古典の代表作を揃えた」
本公演の製作を担う松竹株式会社から取締役副社長・演劇本部長の山根成之が続いて挨拶に立った。
「去年はちょっと新しめのものを上演させていただいたんですけども、今年は古典の代表作を揃えました。非常に豪華かつにぎやかしい俳優陣が揃いましたので、感動できる歌舞伎公演になるのはお約束できます」
片岡仁左衛門と片岡考太郎の親子、そして市川中車、中村壱太郎、市川團子が昨年に引き続き出演し、例年にも増して充実した座組みとなった。
「まさか声をかけていただくとは」――仁左衛門が語る期待
片岡仁左衛門は、参加が決まったときの驚きをこう振り返った。
「今までの過去3回の公演を見ましても、私なんかが出る幕はないような気がしていたんですけども、ぜひとお声をかけていただいた。今回はしっかりと古典の形で立川でお芝居ができる。これは大変ありがたいことで、普段とは違うお客様も見えるでしょうから、自分のファンも広げたいと思っております(笑)」
今回、仁左衛門が勤めるのは『寿曽我対面』の工藤左衛門祐経。記者から「久しぶりのお役では」と問われた仁左衛門は、若き日に同じ演目の別の役で出演したときの記憶を懐かしそうに語り、「役の気持ちになってやるだけ」とシンプルにその心構えを語った。初めて歌舞伎を観る観客も多い立川の舞台について、「歌舞伎というものに馴染んでいただけるように、そういう思いを抱きながらお芝居をしたい」とも語り、入門者への目線を忘れない姿勢がうかがえた。
「父が出るなら、僕も」――息子・孝太郎の率直な驚き
父・仁左衛門とともに今回初登場となる片岡孝太郎は、出演決定の経緯を笑いを交えながら明かした。
「お聞きしたときはびっくりいたしました。あ、父が出るんだ。そうですか。え、僕もですか、と正直思いました」
その上で、「3回まで盛り上げてきたこの立川立飛歌舞伎の4回目、もう1つ盛り上げられるよう、また5回目以降も出させていただけるように頑張りたいと思います」と語り、この公演への愛着を見せた。
7月の歌舞伎座での公演については「7月に東京で過ごすのが何十年ぶりかで、不思議な感覚だった」と明かしつつ、父・仁左衛門の体調を気にかけ、「おかげさまで昨日、千穐楽を無事に迎えられた。パワーアップしているみたいで安心しています」と、息子らしい安堵の表情も見せた。
4年連続・中車が立川に抱く愛着
第1回から皆勤出演となる市川中車は、立川という街への深い思い入れを語った。
「立川を本当に愛し、毎回行くたびに新しいところに足を踏み入れ、昭和記念公園やグリーンスプリングスの街並みにとても愛着がわいています。もう歩くだけでも気持ちがいい、日本の秋を感じられるところだと思い、今年もそれができることを誠に喜ばしく思っております」
今回、中車が初役で勤めるのは『平家女護島 俊寛』の俊寛僧都。記者から仁左衛門とのやり取りについて問われると、「父が61のときに最後にやった役だと思います。60になった自分が初役でやること、いろいろ不安もありますし、歌舞伎という匂いがするお芝居を追いかけても追いかけても手の中から逃げていく、その中で僕は何ができるかという思いで立ち向かっていくつもりです」と、深く真剣な言葉で語った。
1人島に残されるという俊寛の孤絶を「今、皮膚の下にいっぱいに持つことが、僕が精一杯できること」と表現し、立川ステージガーデンの広い空間を自分の内なる世界として満たそうとする覚悟が伝わった。
壱太郎、立役・女方・舞踊の三刀流で臨む
こちらも4年連続出演となる中村壱太郎は、今公演への期待をこう語った。
「立役、そして女方、また舞踊と、本当にたくさんの役をこの11月にさせていただける。今からわくわくしていますし、初役のものもございます」
舞踊の演目では、劇場の高さを生かした宙乗りにも挑戦するとのこと。昨年の宙乗りについて問われると、「テストのときは本当に怖いという思いが強かったが、お客様が入って舞台に出ると、何か守られているような気持ちになる」と振り返り、今年も「6日間、必死に勤めていきたい」と力を込めた。会見の場でうっかり「5日間」と言いかけて「6公演です、失礼しました」と笑いを誘う場面もあり、その人柄が垣間見えた。
市川團子、共演への期待と緊張
2023年と昨年2025年に出演した市川團子は、『寿曽我対面』の曽我五郎時致の他2役を勤める。
仁左衛門との共演については「がっつりとした共演は初めてで、ほんとにありがたく思っています」と語り、「五郎は若い頃に勉強したほうがいいと言われるお役。こういった皆様の中で勉強させていただけることは、ほんとに貴重な経験です」と続けた。一方の仁左衛門も「今回初めて一緒にやるのでとても楽しみにしています」と、先輩として團子への期待を寄せた。
次世代に伝える責任、立川でしかできない歌舞伎を
会見の終盤、仁左衛門は立川・多摩地域の観客へのメッセージをこう締めくくった。
「歌舞伎って自分たちの身近で楽しめる、楽しいものだなって肌で感じていただければ。そして、世界遺産にも登録されているこの歌舞伎というものを、身近に感じていただいて応援していただきたいと思っています」
「TACHIHI presents 立川立飛歌舞伎特別公演」は、11月3日(月・祝)初日、11月8日(日)千穐楽の全6公演。11月1日には立川市のサンサンロード(立川駅北口・多摩モノレール下)でお練りも予定されている。歌舞伎座からは距離のある多摩地域に、今年も本格的な古典歌舞伎の秋がやってくる。
TACHIHI presents 立川立飛歌舞伎特別公演
