作詞家・小竹正人が創造するFlowerの世界観

山口 LDHは、1990年代のZOOをルーツに、ダンサー&シンガーのグループの新たなムーブメントを作り、一つのジャンルとして確立させています。音楽的なことだけでなく、ユーザー層の開拓の仕方、マスメディアとのつきあい方など、ビジネスプロデュースが秀逸だなと感心します。僕から見ると、EXLIEや三代目J Soul Brothersはジャニーズとの比較で、E-girls系のグループはK-POPとの比較で見てしまうのですが、その中でも、Flowerの日本的な情緒感は、ダンスグループとしては珍しい路線になっていますよね。

伊藤 はい、他のLDHのアーティストに比べると海外で制作されたトラックが少ないし、海外トラックだとしてもトップラインは日本人が書いている印象です。何よりも作詞の半分近くは小竹正人が担当しています。彼は小泉今日子や中山美穂、藤井フミヤ、中島美嘉、久保田利伸、EXILEなど、メジャーアーティストを中心にヒット作を数多く手がけている作詞家なんですけど、Flowerが歌詞に重きを置いていることを考えれば、彼もFlowerのプロデューサーの1人で、世界観をつくっていると言ってもいいですね。

山口 なるほど。日本人作曲家のメロディで、しかも歌詞の世界を大切にして、Jポップ的な作品にしているわけですね。Jポップにおける歌詞の重要性についてはこのコラムでも何度か指摘しましたが、別の視点からのお話を披露しましょう。Gracenoteという世界中の1億8000万曲の楽曲情報のデータベースを持っているB to Bの会社があります。アメリカのカーステレオでのシェアは9割以上で、テレビや映画、最近はスポーツなどのデータも網羅しているスーパーデータカンパニーなのです。僕が主宰する「ニューミドルマン養成講座」(外部サイト)の講座にゲストスピーカーでお招きしてお話を伺いました。

伊藤 おじゃまさせていただきましたけど、興味深かったです。楽曲やアーティストの情報をデータ化して、それをビジネスにする、しかも音楽だけでなくいろいろな業界で活用されているって、いままであまり考えてこなかったことでした。

山口 ジャンル、MOOD(楽曲の雰囲気)、ERA(レコーディングの時期)などの楽曲に関連する詳細なデータを、自社のエディターの感覚とコンピューターのアルゴリズムを組み合わせて分析しています。そんなGracenoteも、歌詞で使われている言葉に関するデータは持っていないんです。今、世界中の音楽配信サービス、ネットラジオ局で、ここのデータを使ってない会社はないと言ってよいのですが、これらのサービスのリコメンデーション、パーソナライゼーションに歌詞の情報が必要とされてないようなのです。これからJポップでリコメンドシステムを作るとしたら、歌詞がないなんてありえないですよね? 卒業ソングとかまとめて出すなんて、日本では普通ですよね?

伊藤 Jポップだったら、四季はもちろん卒業やクリスマス、バレンタインなどのイベント、あとは「萌え」「肉食」とかのアティテュード系、これからは「妹」「年下彼氏」などのコネクションや「さとり」とかも可能性あるんじゃないですか。

山口 Jポップにおける歌詞のボキャブラリーの重要性は洋楽に比べて高いんですね。

2015.12.14(月)
文=山口哲一、伊藤涼